2008/3/26  22:52

遺産相続放棄  家族

最近、織物のアトリエは遺産相続の話で持ち切りだ。

フランスでも遺産と言えば話題に事欠かない。
親が生きているうちに、住んでいる家をどのように相続するかの相談とか、兄弟のうち一人だけ得するような分与があって家族仲が悪くなったとか、そういう話題は聞きたくもないのだが、自分の子供や孫が、働きながら学校に通うのを気の毒に思い、はて両親が残した財産はどうなったのだろう、それがあれば彼らが働く必要がなくなるのではと、急に思い立ち探してみたら、既に時遅く全て銀行のものになってしまっていた、という切ない話もある。

そういう話を聞きながら、そういえば我が家のことを思い返した。私の実家は決して裕福とはいえない家庭だったので、そんなものは無縁だと思っていたのだが、生きていれば何かしら残るものらしい。しかし、祖父の遺産相続について、親戚から連絡が来たのは、当人亡き後20年近く経ってから、しかも私の父も亡くなって数年後だった。

祖父名義のまま残してあった家を老朽のため処分し、土地を売却する際、我々にもその利益を受け取る権利があると言う。ただし、連絡が来たのは、この相続権を放棄してほしい、と言う請願のためだった。

正直なところ、父の死後、我が家の家計は生前よりも却って潤ってしまった。日本の大企業に勤めるということは、最近でこそ安定を約束されるわけでなく、終身雇用こそ将来安泰と考えることもなくなってきた。それでも、いまや破綻すると言われている年金制度と、この企業に25年以上勤務したために、会社から支給された早めの退職金とで、私たち家族は大いに助けられた。私はそうして、大学の授業料、貸与されていた奨学金の返却も済ませ、さらにフランスで暮らす機会まで手に入れることが出来た。父が働いていた恩恵は、本人ではなく、残された家族のみが享受することになった。感謝と申し訳なさが入り混じる。

だから、ここで、頭の片隅にもなかった祖父の遺産なんて、もう必要ないのである。私の家族は全員一致で、放棄を決めた。それは同時に、この祖父名義の家に住んでいた従妹とその母親とを、支援できるからでもある。彼女たちの生活が苦しくなることを知りながら、強欲に分け前寄越せなんて、そんなこと言わなくても、困らない生活を送っているのだ。父がこの二人を案じて、我が家に呼び寄せる計画は、父が死んだことで立ち消えになってしまった。何も与えられないなら、せめて何も受け取らない選択がある。

そう思っていたのに、別の兄弟からは、権利を主張する連絡が入ったらしい。経済的に、我が家より裕福な家にいながら、それでももっと欲しがるなんて、あの二人を見て、本気で考えられるものなのだろうか。そんな人と血縁関係だなんて、私にもそういう要素があるのかも知れない。

アトリエで、作業も忘れて話している彼らの話を、何だか厭な思いで聞き流していたけれど、私も損をしないように、ちゃんと準備しないと、なんて、あの歳になったら、思ってしまうのだろうか。人の欲って、恐ろしい。

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