2008/3/29  22:58

挑戦状  趣味

誰からかと言えば、あの憎き繊維を喰う虫、である。
フランス語ではmiteという。
実物を見たわけではないので、日本でよく遭遇したヒメマルカツオブシムシなのかどうかははっきりしないが、数日前にはなかった穴が開いているのだから、何某かに喰われたことは間違いない。

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彼らだって生きているのだから、食べる必要はあるのだけれど、ちょっと一口くださいと言えば、適当なのを見繕うものを、勝手に物色されるのだから困る。
特に彼らは美食家で、質のよい繊維を好むのだ。
今回のターゲットはカシミヤだった。

このコートは、私が数年前に編んだもので、先日肩掛け鞄の所為で擦り切れたところを直したばかりだし、穴をふさぐことはそれほど難しくはない。問題なのは、やつが今回穴を開けたのが、袖と肩との境目で、引き返し編みという、特殊な技法の部分だったことだ。そうでなければ、発覚した時点ですぐに直していたのだ。

しかし場所が悪かったことと、何しろ擦り切れるくらい長く着ていたことから、そろそろほどいて編みなおそうと思っていた。私は編んだセーターを何度もほどいては別のデザインに変える。つい最近も、去年完成させたカーディガンの、袖丈など気に入らなかったので、毛糸だまにしてしまった。

とはいえ何しろ他のセーターも順番待ちなのと、編み物だけに集中する時間がないので、今年は修復して乗り切ることに決めた。改めて編地を見て、絶妙な位置がほつれている事に感嘆する。これは本当に彼らから挑戦状を叩きつけられた気分である。


最初は刺繍針で、穴の部分を埋めようとした。平編みの部分でなら非常に簡単な作業。ところが、ちょうど引き返し編みのところが抜けていて、ここを再現しないと段数が合わず、上手くつながらない。これは無理かと思ったが、あのほんの小さな虫のお腹を満たしたためにコートを諦めるのなんて、あまりにも代償が大きすぎる。

逆に言えば、ここは袖と肩の境目、つまり袖を少しだけほどいて引き返し編みをし、肩と繋げれば良いのではないか。これが成功。しかも、袖だけをほどくだけでよく、肩の側は一切喰われていない。なんとやつらそこまでお見通しか。本当にそう思うほど絶妙な位置を喰っているのだ。

さすがに数年着ていたので、色が少々変わってはいたけれど、幸い共糸で無事穴は塞がれた。それにしたって夏場はともかく、寒い冬の、まさにセーターを毎日着ているこの時期に、こんな喰われ方するなんて思っても見なかった。今回、自分が編んだ、共糸も残っているものが狙われたのは、不幸中の幸いかも知れない。

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