2008/2/18 21:47
窓の向こう 夕暮れショートショート
「好きな季節はいつ?」と問われたら、迷わず「冬」と答える。雪が好きだ。
雪と言えば、高校の頃を思い出す。昼休みにグランドで雪合戦をした。授業の合図で、慌てて教室に戻った。現代国語の時間だった。黒川先生は、授業中にぼんやり外を眺める、一風変わった雰囲気の人だった。
授業が終わり、階段を駆け下りながら、バスに間に合うかなと腕を見た。ない。祖父の形見の腕時計がなくなっていた。雪合戦の時にはずれたのかもしれない。日は既に傾いていた。私はグランドに戻ると時計を探し始めた。しばらくすると「どうした?」と声がした。顔を上げると黒川先生だった。「大事な時計を失くしたみたいで。」「では、私も探そう。」と先生は雪の上を探し始めた。いつの間にか、辺りは薄暗くなり、寒さが増してきた。
「あったぞー。」と黒川先生が走り寄って来た。そして、時計を差し出し「これで安心して帰られるな。」と言って、くるりと振り向くと手を宙に振りながら戻っていった。その後姿に「ありがとうございました。」と、私は大きな声で頭を下げた。受け取った時計を腕にはめるとひんやりした。
「先生!解けました。」
「ああ。では、見てみますか。」
と黒板に向かう。化学の教師になって3年になった。授業中、窓の向こうを眺める癖がある。
雪と言えば、高校の頃を思い出す。昼休みにグランドで雪合戦をした。授業の合図で、慌てて教室に戻った。現代国語の時間だった。黒川先生は、授業中にぼんやり外を眺める、一風変わった雰囲気の人だった。
授業が終わり、階段を駆け下りながら、バスに間に合うかなと腕を見た。ない。祖父の形見の腕時計がなくなっていた。雪合戦の時にはずれたのかもしれない。日は既に傾いていた。私はグランドに戻ると時計を探し始めた。しばらくすると「どうした?」と声がした。顔を上げると黒川先生だった。「大事な時計を失くしたみたいで。」「では、私も探そう。」と先生は雪の上を探し始めた。いつの間にか、辺りは薄暗くなり、寒さが増してきた。
「あったぞー。」と黒川先生が走り寄って来た。そして、時計を差し出し「これで安心して帰られるな。」と言って、くるりと振り向くと手を宙に振りながら戻っていった。その後姿に「ありがとうございました。」と、私は大きな声で頭を下げた。受け取った時計を腕にはめるとひんやりした。
「先生!解けました。」
「ああ。では、見てみますか。」
と黒板に向かう。化学の教師になって3年になった。授業中、窓の向こうを眺める癖がある。
2006/11/15 20:26
100円の筆 夕暮れショートショート
筆をいっぱい買った。学校の自由時間で書道をしてもらうためだ。自分ひとりで、みんなの分の道具を買うほどお金持ちじゃないから、下敷きもなし、硯もなし。新聞紙と紙コップで代用した。紙もそんなに買えないから、新聞紙で練習してもらい、清書だけ和紙を使った。みんな思い思いに好きな文字を書いた。前日提案したときは、「えええええええーーーーっ」て反応だったけれど、書いているみんなはなんだかとても楽しそうだ。清書をし終わった頃、男の生徒が「字書くの面白いね」と声をかけてきた。「ね。」
授業が終わり、生徒全員が教室を去ったと思い、振り向くと先ほどの彼がいた。「忘れ物?」と聞くと「先生、筆欲しい。」「えーっ、これ私が買ったんだから。」と渋った。ひとりだけ特別扱いもできない。断ろうと思ったとき、「寮でも書きたい」と彼が言った。その言葉に心が動いた。「わかった。いいよ。でも、寮汚さないでよ。」「うん」彼はうれしそうに、筆を一本選んだ。100円の筆。墨もほしいと一番少なくなった墨汁の容器を選んで持っていった。
その後、教室に残った新聞紙の残骸などをひとり片付けた。紙コップにまだたくさんの墨汁が残っていた。一つの容器にまとめようと紙コップを持ち上げた瞬間、ふわっと墨のいい香りがした。
授業が終わり、生徒全員が教室を去ったと思い、振り向くと先ほどの彼がいた。「忘れ物?」と聞くと「先生、筆欲しい。」「えーっ、これ私が買ったんだから。」と渋った。ひとりだけ特別扱いもできない。断ろうと思ったとき、「寮でも書きたい」と彼が言った。その言葉に心が動いた。「わかった。いいよ。でも、寮汚さないでよ。」「うん」彼はうれしそうに、筆を一本選んだ。100円の筆。墨もほしいと一番少なくなった墨汁の容器を選んで持っていった。
その後、教室に残った新聞紙の残骸などをひとり片付けた。紙コップにまだたくさんの墨汁が残っていた。一つの容器にまとめようと紙コップを持ち上げた瞬間、ふわっと墨のいい香りがした。
2006/9/27 10:22
ビーチサンダル 夕暮れショートショート
「それで?」
と私の問いに、彼はだまったまま遠く彼方へ目をやった。
沈もうとする夕日のオレンジが、彼の顔をてらしていた。横顔を見つめるのに飽きると、私は海の向こうでじょじょに赤くなる夕日に目をやった。風が二人の間をすりぬけていった。
「もう やめたいんだ。」
彼は、静かに口にした。その声に、私は彼を見た。彼は、足元に視線を落とした。足元のテトラポットに、波がよせてかえし、波の音と波がテトラポットにあたって砕ける鈍い音がした。赤と黄色のビーチサンダルを履いた4本の足は、ゆらゆら揺れる海面の上で棒切れのように頼りなく見えた。彼は、ふっと顔をあげて私のほうを向くと、気遣うようにほほえんだ。
「ええええええーっ?」
私は、すっとんきょうな声で驚いてみた。しかし、無反応な彼の様子に、
「なんでっ?」
と本気で問いなおした。まったく、わけがわからなかった。
「もう、決めたことだからさ」
彼は、ふたたび海の向こうに顔を向けてさらりと言った。風が彼をとり囲んで、一瞬で届かない空間へ運んでしまったみたいに見えた。
夕日は、いつのまにか半分まで海へ沈んでいた。空が赤く染まり始めていた。
「半分になっちゃったね。」
「うん。」
ゆっくり、ゆっくり。夕日は沈んでいく。二人はだまって、その様子をみつめつづけた。最後の光が、海に吸い込まれるようにして消えた。その途端、海面が黒くなり、空は燃えるように赤くなった。
「ゆうすけの人生だもんね。」
「・・・・・。」
「自分で決めたことだもん。きっと、うまくいくよ。」
彼は、無言でうなずいた。
黒い海面は、ゆるやかにうねっているようにも見えた。堤防の先端にある灯台のライトが点灯した。一隻の漁船が、港へ戻ってきた。
「とにかく元気でいてよ。体は資本だからさ。」
彼は、またうんと深くうなずいた。少し強めの向かい風が、二人の顔にあたった。彼は、ずっと海を眺めていた。
「なんか、寒くなってきた。帰ろうか。」
と私は立ち上がった。今まで見ていた風景が、ふわっと宙に浮かんだように見えた。バランスをとりながら、体を反転させ地面を見定めた。えいっと堤防を飛び降りると、足の裏にジーンと強い衝撃が伝わった。何も感じなかったかのように立ち上がると、車へ向かって足早に歩いた。
彼はなごりおしそうに、ゆっくりと立ち上がり、軽々と堤防を飛び降りた。
「なんか、腹減ってきた。おいしいもの食べに行こう。」
私の背を追いかけながら言った。
「食べに行こうって、連れて行くの私でしょっ!」
運転席の扉を開けながら、彼を見た。
てれかくしするかのような笑みを浮かべて、彼は車の反対側に走り寄り、助手席の扉を開く。
空腹の二人を乗せて、軽自動車は勢いよく発進した。
と私の問いに、彼はだまったまま遠く彼方へ目をやった。
沈もうとする夕日のオレンジが、彼の顔をてらしていた。横顔を見つめるのに飽きると、私は海の向こうでじょじょに赤くなる夕日に目をやった。風が二人の間をすりぬけていった。
「もう やめたいんだ。」
彼は、静かに口にした。その声に、私は彼を見た。彼は、足元に視線を落とした。足元のテトラポットに、波がよせてかえし、波の音と波がテトラポットにあたって砕ける鈍い音がした。赤と黄色のビーチサンダルを履いた4本の足は、ゆらゆら揺れる海面の上で棒切れのように頼りなく見えた。彼は、ふっと顔をあげて私のほうを向くと、気遣うようにほほえんだ。
「ええええええーっ?」
私は、すっとんきょうな声で驚いてみた。しかし、無反応な彼の様子に、
「なんでっ?」
と本気で問いなおした。まったく、わけがわからなかった。
「もう、決めたことだからさ」
彼は、ふたたび海の向こうに顔を向けてさらりと言った。風が彼をとり囲んで、一瞬で届かない空間へ運んでしまったみたいに見えた。
夕日は、いつのまにか半分まで海へ沈んでいた。空が赤く染まり始めていた。
「半分になっちゃったね。」
「うん。」
ゆっくり、ゆっくり。夕日は沈んでいく。二人はだまって、その様子をみつめつづけた。最後の光が、海に吸い込まれるようにして消えた。その途端、海面が黒くなり、空は燃えるように赤くなった。
「ゆうすけの人生だもんね。」
「・・・・・。」
「自分で決めたことだもん。きっと、うまくいくよ。」
彼は、無言でうなずいた。
黒い海面は、ゆるやかにうねっているようにも見えた。堤防の先端にある灯台のライトが点灯した。一隻の漁船が、港へ戻ってきた。
「とにかく元気でいてよ。体は資本だからさ。」
彼は、またうんと深くうなずいた。少し強めの向かい風が、二人の顔にあたった。彼は、ずっと海を眺めていた。
「なんか、寒くなってきた。帰ろうか。」
と私は立ち上がった。今まで見ていた風景が、ふわっと宙に浮かんだように見えた。バランスをとりながら、体を反転させ地面を見定めた。えいっと堤防を飛び降りると、足の裏にジーンと強い衝撃が伝わった。何も感じなかったかのように立ち上がると、車へ向かって足早に歩いた。
彼はなごりおしそうに、ゆっくりと立ち上がり、軽々と堤防を飛び降りた。
「なんか、腹減ってきた。おいしいもの食べに行こう。」
私の背を追いかけながら言った。
「食べに行こうって、連れて行くの私でしょっ!」
運転席の扉を開けながら、彼を見た。
てれかくしするかのような笑みを浮かべて、彼は車の反対側に走り寄り、助手席の扉を開く。
空腹の二人を乗せて、軽自動車は勢いよく発進した。
2005/10/14 21:59
夜の世界では 夕暮れショートショート
断崖絶壁を飛び降りた。ベスト型ジェットエンジンを着た私は、海鳥達と共に、サンゴ礁の海の上を飛び回った。透きとおる海の下には、サンゴ礁がきらきらと光って見える。こんな美しい世界を目にできるとは!興奮した。体に当たる風がひんやりして気持ちよい。ふと陸を見ると、そこにはカニがうようよいた。
カニ達は、しきりに緑色の液体を出している。すると液体がかかった所は、みるみる煙をあげて溶けていく。すごい!−これなら、カニを使ってプラスティック分解できるな!−と妙案を思いつくが・・・。このカニは、なんでもかんでも溶かしてしまうことがわかった。どんどん人間はカニに溶かされていった。わたしもカニに追い詰められつつあった。しかし、弱点があったのだ。カニに温かい緑茶をかけるとカニは消えていくのだ。お茶がかけられる間、カニの甲羅は徐々に緑になって、その表面に星座のような模様が浮かんでくる。そして、徐々に透明になって消えていくのだ。
朝が来た。
カニ達は、しきりに緑色の液体を出している。すると液体がかかった所は、みるみる煙をあげて溶けていく。すごい!−これなら、カニを使ってプラスティック分解できるな!−と妙案を思いつくが・・・。このカニは、なんでもかんでも溶かしてしまうことがわかった。どんどん人間はカニに溶かされていった。わたしもカニに追い詰められつつあった。しかし、弱点があったのだ。カニに温かい緑茶をかけるとカニは消えていくのだ。お茶がかけられる間、カニの甲羅は徐々に緑になって、その表面に星座のような模様が浮かんでくる。そして、徐々に透明になって消えていくのだ。
朝が来た。
