2004/10/7  19:11

【BROTHERS -1-】  分類なし

【BROTHERS -1-】

ある兄弟のお話。幼い頃から、兄は弟をかわいがり、弟は兄を慕って
きました。仲の良い兄弟。少なくともはた目にはそう見えました。
兄も弟ももう子供ではなくなったある日、ひょんなことから、兄弟は
一緒にマラソンに出場することになりました。42.195km、フルマラソン
です。

兄は以前にマラソンを走ったことがあり、その経験から自分のペースで
走り始めます。一方、フルマラソン初体験の弟は、勢いにまかせたハイ
ペースなスタートです。とばし気味に走りながら、弟の頭にある思いが
浮かんできました。あの人はまだ自分のずっと後ろを走ってるみたいだ。
イケルかもしれない。あの人に勝てるかもしれない。

俺はあの人の後ろをついてきた。子供の頃からずっとそうだった。
いつもあの人の背中を見ながら歩いてきたんだ・・・。

弟は走りながら、そんなことを考えていました。自分が本当に小さ
かった頃は、そのことに何のこだわりもなかったと思う。前を歩く
あの人の背中は大きくて、俺はその背中を見て安心してた。俺の手を
包んで引いていたあの人の手はやっぱり大きくて、そして暖かかった。
兄ちゃんと一緒ならどこへだって行ける、何があっても怖くないさ、
そんな風に思ってた。

あれは、いつのことだったろう?額の汗を手で拭いながら、弟は
思い出そうとしていました。いつものように俺の手を引こうとした
あの人の手を俺は振り払った。兄ちゃんに手をつないでもらわなく
たって、僕はちゃんと歩けるんだ。兄ちゃんの背中を見ながらじゃ
なくても歩けるんだ。あの時、本当に突然に俺はそう思ったんだ。
そして、俺は差し出されたあの人の手を拒絶したんだ・・・。

2004/10/7  19:09

【BROTHERS -2-】  分類なし

【BROTHERS -2-】

アイツ、デカくなったよなぁ・・・。自分の前方を走る弟の背中を見な
がら、兄はそう思っていました。いつのまにか兄である自分より大きく
なっていた弟。昔は小っちゃかったのになぁ。って、当たり前か。
思わず苦笑いをする兄。

アイツが生まれた時、俺は4歳だった。兄はマイペースで走りながら、
幼い頃の記憶を辿っていました。「ひろちゃんはもうすぐお兄ちゃんに
なるんだよ。」大きなおなかをした母親がそう言った時は、単純に
嬉しかったと思う。「あのね、ボクね、もうすぐお兄ちゃんになるんだよ!」
幼稚園の先生に得意気に話したこともあったな。

そして、アイツは生まれてきた。小っちゃくて、丸っこい、これが
俺の弟なんだ。なんかかわいいぞー。最初はそう思ったさ、だけど・・・。

赤ん坊はひとりで何もできない。母は生まれたてのアイツにかかりっきり
になった。俺は淋しかった。アイツが生まれてくるまで、母は俺だけの
母だったのに・・・。それでも、アイツが眠ると、母は俺を抱きしめて
くれた。「淋しかったでしょう?ごめんね。でも、いい子で待ってて
くれてエラかったね。ひろちゃんはお兄ちゃんだもんね。」4歳の俺が
母の腕の中で、何度も何度も聞いた言葉・・・。

俺は頑張った。淋しかったけど、頑張った。いい子、いい兄でいれば、
母は俺をほめて抱きしめてくれる。だから頑張った。わがままは言わず、
自分でできることは自分でやった。進んでアイツの世話を焼き、面倒を
みた。アイツのことはかわいいと思ってたさ。その気持ちはウソじゃ
なかったと思う。だけど、かわいかったからかわいがった、それだけ
でもなかったんだ・・・。

2004/10/7  19:07

【BROTHERS -3-】  分類なし

【BROTHERS -3-】

兄と弟はそれぞれに走り、いくつめかの給水ポイントに先に着いたのは
弟の方でした。水分を補給し、休憩していると兄もやってきました。
そして、兄は弟より先に出発していきます。

弟も走り始めます。前方に見える兄の背中。幼かった頃からずっと
見てきたその背中を追いかけて走りながら、弟はため息をつきます。
またあの人の背中見てるよ、俺・・・。

兄ちゃんに勝ちたい。何でもいいから、一度でいいから勝ちたい。
あの人の手を振り払ったあの日から、俺はずっとそう思ってきたような
気がする。かけっこ、野球、サッカー、バスケットボール・・・何を
やっても俺はあの人に勝てなかった。子供の頃の4歳の年齢差、兄は
8月生まれで、弟は1月生まれだから、正確には4年5ヶ月の差は絶対
超えられない壁。

また、運動神経がやたらめったらいいんだよな、あの人は。徐々に
距離が開き、小さくなっていく兄の背中を追って走りながら弟は思い
ます。俺が中学生、アニキが高校生だった時、俺は身長でも体重でも
アニキを抜いた。だけど、体格では上回っていても、それでも何一つ
勝てなかった。一度も勝てなかったんだ。勝ちたい。どうしても
勝ちたい・・・。そう思った弟は足に力を込め、スピードを上げました。

2004/10/7  19:06

【BROTHERS -4-】  分類なし

【BROTHERS -4-】

負けるわけにはいかねぇんだよ。兄はそう思いながら弟の前を走って
いました。俺はいつだって勝ってなきゃいけなかった。「さすがは
お兄ちゃんだね。」って言われてなきゃいけなかったんだ。アイツが
生まれてからずっと。

痛くなってきた右足を気にして、それでも走り続けながら、兄は昔を
振り返っていました。勝ち続けること、いい子、いい兄でいることは
ラクじゃなかった。アイツはいつだってやんちゃで、奔放で、好きな
ことだけやって、それが許されてた。ちょっと羨ましかったな。それ
でも俺はアイツのように振舞うことはできなかった。踏み外せないよう
にできあがっちゃったんだよな、俺は。あ、1回外れかけたことが
あったっけか、高校の時。でも、結局は踏み外しきれなかったんだよな。

そんなことを考えながら走っている兄を弟が追い抜いていきました。
子供の頃からずっとあの人には勝てなかった。敵わなかった。でも、
俺はもう子供じゃない。大人だ。あの人を超えたい。いや、超えないと
いけないんだ。そんな思いを胸に、弟は必死で走ります。

2004/10/7  19:04

【BROTHERS -5-】  分類なし

【BROTHERS -5-】

あと少しでゴールというところまできた時、前を走っていたのは兄の方
でした。あれほど兄に勝ちたい、兄を超えたいと思っていた弟でしたが、
この時、弟は、やっぱ俺はあの人には敵わないのかな・・・と半分以上
諦めてしまっていました。あの人はきっと先にゴールするだろう。いや、
もうゴールしてるかもしれない。あの人はゴールで俺を出迎えるだろう。
俺があの人を出迎えたかったのに・・・。

弟は疲れと諦めでもう走ることができなくなっていました。それでも
動かない足をどうにか動かして、あと100mでゴールというところまで
やってきた弟の耳に届いた声。それはとっくにゴールしているはずの
兄の声でした。

兄は一緒にゴールしようと弟を待っていたのです。精も根も尽き果てて、
やっとの思いで歩いている弟の背中、いつのまにか自分よりずっと大きく
なったその背中を兄は押します。

兄と弟は手をつないで一緒にゴールしました。弟は兄に勝てませんでした。
兄を超えることはできませんでした。けれど、子供の頃からずっと追い
かけてきた、常に前にあった兄の背中と自分の背中を並べることはできた
のです。

ゴールの直後、極度の疲労に様々な感情が重なりその場にしゃがみこむ
弟に兄は言いました。「俺はオマエに勝ってないけど、負けてもいない
からな。」弟が兄を超えることができるのは、まだしばらく先のようです。

=the end=

2004/10/4  18:57

【Keep on lovin' you…】  分類なし

【Keep on lovin' you…】

誰かに好かれていること、それはとても嬉しいこと。
誰かに愛されていること、それはすごく幸せなこと。

でも。
誰かを好きでいられること、それはより嬉しいことかもしれない。
誰かを愛していられること、それはもっと幸せなことかもしれない。

私はその気持ちを大切にしたい。
たとえその思いの行き先が見えなくても。
愛していられることそのものが私には大事。

私の愛は増える。
もともとの私の愛の質量が10あるとしたら、それを分配するんじゃなくて。
あなたに10の愛。あなたにも10の愛。そしてあなたにも10の愛。
私の愛は増えるから。

そうやって私は愛を注ぐ。
注ぎ続ける。
I'll keep on lovin' you,
…forever.

2004/10/2  12:44

【免罪符】 -1-  分類なし

【免罪符】 -1-

拓人(タクト)が茉子(マコ)と暮らし始めてから1年が過ぎようとしていた。
去年の今頃、茉子が拓人の部屋に泊まった。それまでにも茉子は何度か
泊まっていたのだが、5度目のその時は次の日になっても、次の次の日に
なっても何故だか茉子は帰ろうとせず、そのまま転がり込んだ格好になって
月日が過ぎ、気がつけば季節が一巡していた。

拓人と茉子がつきあいはじめたのは3年前。拓人は思う、長くつきあっていても、
一緒に生活してみて初めてわかることがある、と。茉子はプロ野球が大好きで
ジャイアンツの大ファンだ。それは知っていた。だけど、これほどまでだとは・・・、
拓人は正直、思っていなかった。

いわゆるシーズン中、拓人が仕事から帰ると、茉子はテレビで巨人戦を
観戦している。ビール片手に、テレビに向かって「かっとばせー、高橋!」
などとやっている。試合終了までやっている。

2004/10/2  12:42

【免罪符】 -2-  分類なし

【免罪符】 -2-

試合の途中で地上波の放送時間が終わってしまう場合がある。そういう時の
ために、拓人の部屋の拓人のテレビだというのに、茉子は自ら費用を出し、
スカパーに加入してしまった。そうやって、試合終了までずっと見ている。
にもかかわらず、茉子はスポーツニュースも見る。それも、チャンネルを順番に
変えて、全ての局のスポーツニュースを見る。

茉子のその行動はジャイアンツにも、プロ野球にもさして興味のない拓人
には理解できない世界だ。試合が終わるまでずっと見てたんだから、結果
知ってんじゃん。誰が投げて、誰が打って、どういう展開になって、どっちが
勝ったか、全部わかってるのに、片っ端からスポーツニュースを見ること
ないんじゃない?拓人はそう思い、茉子に言ってみた。茉子は「そうなんだ
けどぉ、でも、見たいんだよねー。なんか見ちゃうんだよねー。」と言い、そして
にっこり笑った。

その笑顔を見たら、拓人は何も言えなくなった。文句のひとつも言ってやろうと
思っていた拓人の気持ちを茉子の笑顔は簡単に萎えさせた。ジャイアンツ
漬けのテレビライフでも、コイツがこんな笑顔をするなら・・・ま、いっか。

茉子の笑顔は拓人にとっては免罪符、しかもとびきりの。しかし、自分の笑顔が
拓人に対して絶対的な力をもつことに茉子自身は気づいていない。

2004/10/2  12:39

【免罪符】 -3-  分類なし

【免罪符】 -3-

茉子と一緒に暮らし始めて、しばらくは茉子のあまりのジャイアンツファンぶり
に驚くばかりだった拓人が、次に思ったことは、コイツって家事能力ゼロだった
んだ・・・ということだった。

茉子は家事ができない。いや、できないというよりはやらないというか。掃除、
洗濯、料理、洗いもの、何もしない。とにかくやらない。拓人が全てをやって
いるのだ。

拓人は料理が得意で、その腕はほとんどプロ級、もともと几帳面な性格で、
きれい好きでもあるし、女は家事ができるべき、やるべきだというような考え
の持ち主でもない。だから、普段はまぁいいのだが、時には、仕事が忙しく
帰宅が遅い日が続くこともある。そんな時は家の中のことをやる余裕がなく
なってしまう。たまっていく洗濯物、散らかり、汚れていく部屋・・・。

それでも、茉子は何もしない。茉子は働いているが、彼女の仕事はいわゆる
受付嬢で、残業などはまずない。拓人の仕事が特別忙しい時でなくても、
たいてい茉子の方が先に帰ってきている。しかし、茉子は何もやらない。

2004/10/2  12:36

【免罪符】 -4-  分類なし

【免罪符】 -4-

結局、拓人がやるまで、洗濯物はたまり続け、部屋は散らかり続け、汚れ
続ける。「普段はいいさ。だけど、俺が仕事で忙しくて余裕がない時くらいは、
掃除や洗濯、少しはやってくれてもいいだろ!」明日、そう言おう・・・。

その翌日、拓人が茉子にガツンと言うハズだったその日の深夜、連日の
ハードな仕事で疲れきった拓人が帰宅すると、茉子は既にベッドで眠っていた。
拓人が帰ってきたことに気づく様子もなく、ぐっすり眠っている。今日は言って
やろうと思ってたのになぁ、と、拓人はため息をつく。そして、ネクタイを緩め
ながら、眠っている茉子の顔を何気なく覗き込んだ。

その寝顔を見たら、拓人は自然と微笑んでいた。どんな状況でも家事を全く
やらない茉子に憤りを感じていたはずなのに、そんなことはどうでもよくなった。
家事は全て拓人まかせの茉子。拓人が家事をやらない日が続けば、洗濯物
はたまり、部屋は散らかり、汚れる。だけど、コイツがこんな寝顔で眠って
いられるなら・・・ま、いっか。

茉子の寝顔は拓人にとっては免罪符、それも最上級の。しかし、自分の
寝顔が拓人に対して限りない力をもつことに茉子自身は気づいていない

RSS1.0