2008/3/25  18:43

脱税事件のまとめ 第2回  小論考

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III. ツムヴィンケル氏の心の闇

 まっさきに強制捜査を受け、今回の事件の象徴的人物となったツムヴィンケル氏とはどういう人だったのだろうか。

 彼はもともと、とても裕福な家庭の出である。親はデパートのチェーンのオーナーで、親の死後はこれを相続し、売却している。コンサルティング会社のマッキンゼーでキャリアを積んだ後、当時のコール首相によってドイツポストのトップに一本釣りされた。彼は非効率で危機的な状況にあったドイツポストの経営を立て直し、優良企業に育て上げた。これにより、有能な経営者としてきわめて高い評価を受けることとなった。

 彼は政界にも太いパイプを持っていた。昨年、政府は郵便事業における最低賃金制度の導入を決定した。ドイツポストのライバルである新規参入郵便事業者は安い労働力を武器にしていたので、この決定によりドイツポストは市場の準独占状況を維持することとなった。政府の決定の背後には、最低賃金制度導入に積極的なSPD(社会民主党)の意向とともに、ドイツポストのロビー活動があった。

 経営者としては「やり手」である一方、人柄は誠実で控え目であったため、彼は「模範的な経営者」と見られていたという。このため、政府からは勲章を授与され、マスコミからは「最優秀経営者賞」をもらっている。つまり、彼は金も地位も名誉も全て手に入れた人間だったのである。

 こうした経歴と脱税とは、にわかに結びつきにくいように思う。貧しい少年時代を送った人間が大人になって成功し、自分の築いた財産を国に「取られる」のが我慢ならないとして脱税するのは、(やってはいけないけれども心情的に)まだ分かるが、もともと裕福な人が果たしてそういう発想になるのだろうか。また、すでに高い名声を得ているのに、それを失うリスクを承知でなぜ脱税をしたのだろうか。控え目な人柄であればなおさら疑問である。

 更に、家宅捜索をしたところ、さぞ高価な骨董品や豪華な調度品や宝石があることだろうという捜査員の予想を裏切り、家の中には高価なものがないどころか、壁紙は古びていて、台所には戸棚が欠けていたのだという。つまり彼は、とても巨額の資産を隠匿した人間とは思えないほど質素な暮らしを送っていたのである。

 金も地位も名声もあり、つつましい生活に満足していた彼が、一体何故脱税という罪を犯したのか。自分の資産を拡大させること自体に喜びを見出し、資産を増やすためなら手段を厭わない人間だったのか。それとも、既に国のために充分な貢献をしたから、更に国に金を払う必要などないと思っていたのか。本当の動機は今もである。

 しかしいずれにせよ、彼の地位も名声も地に墜ちた。強制捜査を受けた後、彼はドイツポストのトップを解任された。かつて密接な関係を築いた政界の中に、彼を擁護する者はもはや誰もいない。400万ユーロ(約6.4億円)の保釈金を即刻振り込んだので、留置場生活だけは免れることができたのだが。(続く)

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