2008/3/3  14:01

日曜のブランチは君と  RECOMMENDATION

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最近ヒト付き合いをすっかりしなくなってしまった。
ヒトほど面倒なものはない。できれば蟄居したいくらいだ。
そうだ、子供の頃からなりたいものは仙人だった。今やもうヒトはうんざり。
しかし同居するものはなくもない。休日はその「女王様」と優雅にのんびり暮らすことにしている。
女王様とは、最近家族の一員となったアビシニアン(猫)のノエル嬢である。

女王様はいと誇り高いお方で、無礼をしようものなら、ばりばり。容赦ない流血沙汰は中世の王朝を思わせるほどだ。
しかし、あまりにかわいらしいお声を発して、甘えるツボをこころえており、「ツンデレ女王」とはノエルのためにある言葉であるがごとし。特に、好物のカニカマをモノにする技術はすばらしく、女として、見習うべきものがある。まず、前足をクロスして、いすにしなだれかかり、アゴをひいて、上目遣いに目を潤ませて、「アタシ、欲しいの(ヒトにはニャーと聞こえる)」とのたまう。あまりのしなだれぶりに、往年の松田聖子のブリッコぶりが頭をよぎるが、このままじらすと、流血沙汰(ばりばり)になるので、しかたなく、戸棚をあけると、後ろ足で立ち上がり、目をきらきら輝かせながら、美しいソプラノでころころアリアを歌いつつ、くるくる回るのであった。これは、すごい。「カニカマ踊り」と命名する。
3回回ったところで、カニカマを差し上げる。
がつがつ。
女王様、この間は女王様の仮面が宇宙の彼方に飛ぶ。

ノエルは、2年前に猫を亡くし、悲しみのどん底にいるという噂を聞いた、奇特な方が、里親にならぬかと持ちかけてくれたのであった。ちょうど、クリスマスの頃だったので、フランス語でクリスマスを意味する「ノエル NOEL」と名付けたのだが、ここで、フランス人から「ノエルは男名だよ」とチェックが入った。ちえ。またかよ。

実は私は、亡くなった猫がオスだったのに、女の名前を間違えてつけてしまうという前科がある。で、またやってしまうところだった。亡くなった猫との出会いはある秋の晴れた朝。生後1カ月満たぬ猫が我が家の庭の敷石の上にいたのだった。あまりに小さく、また、猫を飼うのは初めてだったので、見分け方がわからず、大好きなフランスの赤いバラといわれた歌手のバルバラの名をいただいたのだった。自分で、やってきたのか、誰かが捨てたのか、真相はいまだにわからないのだが、お公家さんのように目の上に黒ぽっちが二つあり、なんともへんてこなご面相だったので、こんな不細工な猫は誰も飼わぬだろう、と飼うことにしたのであった。それで、獣医に連れて行ったら、オスで、しかもトンキニーズというシャム猫の一種だったことがわかり、びっくり仰天。その二の舞になるところだった。(その後、バルバラは、醜いアヒルの子から美しいオスのシャム猫に変貌した。オスなのに、オスのストーカーまで現われたほどだ)しかし、バルバラといい、ノエルといい、やんごとないお猫さまと縁があるのには、自分ながら驚きだ。

「つづりをかえればいいんだよNOELをNOELLEにすれば、立派な女の子の名前だよ」
そうか。先にそれを言えよな。
というわけで、めでたくノエルと命名された(女名では正確に発音するとノエールである。しかしここは日本だ知ったことか)。前の飼い主が転居するということで里親になることになったのだが、もう、2歳となっていて、おきゃんなギャルといったところだ。我が家はだだっ広いので、アビシニアンの本領発揮、家中を目にも止まらぬ速さで駆け抜ける。ほとんど「ひとりブートキャンプ」である。みるみる背筋は盛り上がり、まるでマドンナのようにムキムキになってしまった。
しかし、アビシニアン(アビシニア)といえば、そのエチオピアが源流だとかないとか、とにかく、その姿の良さは、歌舞伎の女形を思わせる。古代の中東にみえる彫刻は、まるで、ノエルをほうふつとさせる。歩く姿も柳が揺れるようにしなやかで、これほど優雅な姿はない。形のよい大きな耳、緑や金色に変化するつぶらな瞳、長くしなやかな脚としっぽ、光に当たると金髪がきらきらとまばゆい。しかし、そのよく言えば野性味悪く言えばおてんばはなかなか大したもので、シャムのバルバラのおっとりしたたたずまいはつくづく「オヤジ」だったな、となつかしむ。バルバラには、人間の仏様と同じようにお花と水を供えてある。なぜか、ノエルはこのバルバラに供えた水が大好きで、せっかく餌の横に新鮮な水を毎日用意しているのに、そちらには見向きもせずに、バルバラに供えた水を全部飲んでしまう。そして、わたしが帰宅すると「バルバラお兄様の水がありませんことよ(ヒトにはニャーニャーニャーと聞こえる)」とお命じになる。はいはい。水を補充して「バルバラ、ノエルをよろしく頼むよ」と手を合わせる。
手を合わせるといえば、毎日仏壇に手を合わせてから寝るのだが…なにしろ、家族はみな鬼籍に入ってしまい仏壇は満員御礼、ぎゅうぎゅうである…ノエルは必ずその時になると、わたしの横に正座して神妙にする。背筋をすっとのばし、鼻をつんとさせて。何か聞こえているのだろうか。

日曜日、早朝ダンベルとストレッチを30分してから、1時間ほど散歩をする。そして庭の掃除をして、花をつんで花瓶に生ける。今は水仙が満開だ。朝食用に一週間分の野菜スープをル・クルーゼに仕込むと10時近くになる。ブランチにパスタを作る。エリンギとルッコラとバジル、アンチョビににんにく、そして、ハーブのスパイスと粉チーズをたっぷり。マグカップに、深炒りのフレンチローストのコーヒーを入れ、朝刊を持ってサンルームに行く。テーブルにはプロバンスのテーブルクロス。ノエルは、イタリア製のアイロン台の上にかぶせたレースの上に寝そべっている。さんさんと陽光が降り注ぐ。おもての北風は、別世界の話。わたしは、パスタをつついて、コーヒーをすすりながら、新聞の書評などを隅から隅までながめる。ノエルは、ときどき私の座っているコンランの椅子にあがって、寄り添ったりうとうとしたり。静かで平和で優雅な休日の朝。
この幸せがずっと続くといい。

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