2008/3/31 23:47
NAOTO-1-(3) 小説「NAOTO」−1−
NAOTO−1(3)
あれから何年たった?
急に心が淋しくなって、どうしようもなく
眠れなくなってしまう夜には
ボクは、いつもヒロのベッドにもぐりこんで寝るようになっていた。
そして、いつの間にか、
ヒロとボクは、ほとんど毎晩一緒に寝るようになって、
パパは、困惑顔。
「何歳だ?と、いいたいところだが、
ヒロの様子を見てもらっていると思えば、
叱れないな」と、ボクの甘えを容認してくれている。
ヒロは、相変わらず病弱で、時々、喘息の発作で苦しんでいた。
ボクは、至って順調に発育して、
学校の成績もよかったのだけど、
心の成長が、
ママの死んだ日以来、ストップしているみたいだ。
急に弱気になったり、ものすごく寂しくなって、
どうしようもなくて、
自分が心を許せる人に抱きしめられていたくて、
ぬくもりを求めた。
そして、ヒロの胸は、ボクにとって、
もはや無くてはならない存在だった。
困ったとき、さびしいとき、憂鬱なとき、
いつでも、どんなときにでも、
ヒロが、体調の許す限り、
ボクを抱きしめて慰めてくれた。
ママのように。
ヒロは、いつも穏やかで、落ち着いていて、
安心感があったから。
そして、ボクのことを誰よりも分かってくれているから。
いつも何も言わなくても、ボクがヒロの隣にもぐりこむと、
そっと、ボクを引き寄せて、優しく抱きしめてくれる。
ボクらは、大きな、大きなキングサイズベッドに
2人で寝ている。
そう、ママが使っていた、あの白いレースのベッドに。
ママの思い出に浸りながら・・・・僕らは大学生になった。
ヒロは、パパのように医学部で医者を目指していた。
ボクは、ごく普通の大学生だった。
ある日、パパが、女の子を連れてきた。 同い年だという。
なんだか様子の変なコだ。 細くて小柄で、
中学生くらいにしか見えない。
幽霊のようにふら〜っと、パパに支えられながら立っている。
無表情だ。
「パパの親友のお嬢さんで、ノゾミさんという。
ヒロと同じ医学部にいる子だ。」
「先月、事故でご両親を一度に亡くした。
天涯孤独の身になってしまったんだ」
「今日から家族にしてあげてくれ」
「??」 ヒロとボクは、顔を見合わせた。
「ヒロ、知っている子? 大学で見かけたことある?」
「ううん。 気がつかなかった。
だって、まだ入学したばかりだし。」
「そうだよね。」
パパの説明によれば、事故で両親が目の前で亡くなって、
彼女だけ奇跡的に助かり、
ずっとパパの病院に入院していたらしい。
体の傷は治ったけれど、心の傷は深く、
心療科の先生たちがよい治療方法が無くて、
途方にくれていたところを、
可哀想に思ったパパが、手を差しのべたということらしい。
ずっと長いこと、外国に住んで、いくら英語が流暢に話せて、
理解できたとしても、
こんなときには、
母国語の日本語の環境のほうが回復を助ける。
パパは、そう考えたらしい。
それに、彼女は、パパの大親友の子供だったから。
その時、パパのポケベルが、けたたましく鳴った。
また急患の呼び出しだ。
「わるい、行かなければ。 ノゾミさんのこと頼んだよ。」
パパは踵を返して、病院へ戻っていった。
ノゾミを部屋の入り口に残したままで。
ノゾミは、いつまでも一人で立ってはいられなくて、
よろよろとこちらへ倒れてきた。
ボクたちは咄嗟に、腕の中に受けた。
ボクとヒロの真ん中にノゾミが倒れこんできた。
僕らはそのままよろめいて、
後ろにあったソファーに腰を落とした。
力無くうつむいたままのノゾミ。
何の感情も持ち合わせていないみたいだ。
ノゾミを包む暗く沈んだ空気が、
事故の痛ましさを物語っている。
ボクたちは、一体彼女に何をしてあげられるのだろう?
これから、どう、接したらいいのだろう?
途方に暮れそうだった。
お手伝いのハンナさんも当惑顔で、
ミルクティーを淹れてきた。
「クッキーは、いかが?」
と、ハンナさんは勧めてみるけれど、
うつむいたまま何も手をつけようとしないノゾミ。
ただ座っている、いや、支えられているだけ。
一人では、座っていることすら出来ない。
心も、魂も、もう、ここには存在していないかのようだった。
今のボクには、彼女の気持ちは、わかる。
そう、ママを亡くしたボクには。
その時、ヒロが、スプーンでお茶をすくって、
片手でノゾミの肩を抱き寄せて、
口のところにそっとスプーンをつけた。
唇の間にスプーンの先が触れたとき、わずかに唇が開いて、
ノゾミは、お茶を一口、
ごくん、と小さな音をたてて飲み込んだ。
ヒロは、無言で、もう一度同じことを繰り返した。
ノゾミは、ヒロにもたれて、ヒロの肩に頭を埋めるようにして、
何口かお茶を飲んだ。
「あらまあ。 ヒロ坊ちゃんは、もうお医者さんみたいですこと」
ハンナも感心していた。
ヒロは、昔、ママにしてもらっていたことを
真似してやってみただけだと、
恥ずかしそうに言った。
この日から僕らは、家族になった。
ノゾミは、ほとんど食べ物が喉をとおらず、
点滴で栄養分を摂取していた。
それでも、食事の時には、
みんなと一緒にテーブルにつくようにした。
ヒロがお茶を飲ませた時のように、隣に寄り添って、
支えながら、一口ずつ、口元に丁寧に運んであげると、
ためらいながらも、少しずつなら、
食べられるようになっていた。
これには、パパも驚いた。
「今まで、誰一人食べさせられることに成功した人は
いなかったんだよ」
そう言って、「ボクとヒロのおかげだね」、と、感謝してくれた。
ボクは、何もしていないけど、と、言うと、
「美味しそうに食べている姿を見せているじゃないか。」
と、パパとヒロは褒めてくれる。
「何もしていないんじゃない、ナオの存在自体に意味があるんだよ。」
「ボクは、いつもナオが美味しそうに食べている姿を見て、
おなかがすいてくるよ」
と、ヒロも続ける。 なんという褒め言葉。
そんなふうに言われると、なんだかボクも協力したくなってくる。
よい部分をみつけて、それを褒めてあげるって、大事なことだね。
何か手伝ってみようっていう気にさせるもの。
なんとなく、ノゾミの世話を積極的にするようになって、
気がついた。
ノゾミも寝つきが悪いことを。
それだけじゃない。 事故のことを思い出しているんだ。
啜り泣きが毎晩のように聞こえてくる。
怖い夢を見ているのかもしれない。
夜通し泣き明かして、朝には目を真っ赤にしている。
今夜もすすり泣きが聞こえてきた。
それもすぐ近くだ。
そっとドアを開けてみると、
廊下の端にノゾミがうずくまって泣いていた。
月の出ていない真っ暗な廊下に一人で
小さな肩を震わせて、床には「涙のため池」を作って。
「ノゾミ」
「・・・・」相変わらず返事はない。
今まで、ノゾミが話している声を誰も聞いたことが無い。
いつも、泣き声だけ。
ヒロも、気がついて、起きてきた。
「眠れないの?」
ノゾミの隣に並んでしゃがみこんで語りかける。
「おいでよ。 一緒に寝よう」
ノゾミの耳元でやさしく、囁いた。
「!!!!!!」 「ヒロっ」
「いいじゃない。 家族でしょ。 こんなに淋しそう。」
「家族だけど、女の子なんだよ」
「ナオだって、ママと一緒に寝ていたでしょ」
「それと、これとは・・・・」でも、反論できないな。
「おいで。」
ノゾミの両肩を抱えると、ノゾミは、すっと立ち上がって
ヒロについてきた。
ボクとヒロの間にノゾミが横になった。
とても小柄だ。 それに痩せている。
ボクは、ドキドキした。 女の子の隣で寝ている。
そういう経験がないわけではなかったけど
それと、これとは、別だ。
ヒロ、なんて大胆なヤツなんだ。
相変わらず落ち着いている。
ヒロは、そっとノゾミを引き寄せると、
腕の中に抱えて、抱きしめた。
「うっそ〜」
ボクは、一人でドキドキ。
ノゾミは?
もう泣いていない。
ヒロの胸の中に顔を埋めて目を閉じている。
まるで、ボクのようだ。
ボクの指定席にノゾミがいる。 ちょっと妬ける。
「大丈夫、心配しないで。
ずっと一緒にいるよ。 安心して。」
やさしく語りかけるヒロ。
まるでママのよう。 ・・・・ママのよう?
そうか、ヒロは、ママにしてもらったとおりのことを今、
ノゾミにしてあげているんだ。
だから、こんなに動きがスムースなんだ。
大胆なんかじゃない。
ノゾミは、クスンと、ひとつすすり泣きをして、
やがてヒロの胸の中で寝息をたてた。
ヒロは、何事もなかったかのように、もう眠っている。
ボクと違って、寝つきがいいんだ。
心がしっかり大人なんだ。
ドキドキしているのは、ボクだけか。
また眠れない。 今夜は、ヒロの指定席も使えない。
その時、ノゾミが寝返りを打って、
あろうことかボクの胸の中に顔を埋めてきた。
小さな寝息をたてて、ほんの少し泣き顔で、
それでも穏やかに眠っているノゾミを見ていたら、
いつの間にかドキドキすることを忘れていた。
穏やかに眠っている二人の隣で、
ボクだけ一人で眠れないのは不公平だ。
なんだか、ドキドキしていたことが、
バカらしく思えてきた。
女の子だけど、女の子じゃない。
今は、妹なんだ。
ヒロとボクの妹じゃないか。 家族じゃないか。
ええい、もう、どうでもいいや。
少しだけ、ノゾミのことをいとおしく思えてきた。
両親を一瞬にして失って、この世にひとりぼっちになって、
どんなにつらかったかと、ノゾミの気持ちを考えて、
自分と重ね合わせてしまった。
そんなことを、あれこれ思い巡らすうちに、
いつの間にか眠りに着いた。
to be continue・・・・
あれから何年たった?
急に心が淋しくなって、どうしようもなく
眠れなくなってしまう夜には
ボクは、いつもヒロのベッドにもぐりこんで寝るようになっていた。
そして、いつの間にか、
ヒロとボクは、ほとんど毎晩一緒に寝るようになって、
パパは、困惑顔。
「何歳だ?と、いいたいところだが、
ヒロの様子を見てもらっていると思えば、
叱れないな」と、ボクの甘えを容認してくれている。
ヒロは、相変わらず病弱で、時々、喘息の発作で苦しんでいた。
ボクは、至って順調に発育して、
学校の成績もよかったのだけど、
心の成長が、
ママの死んだ日以来、ストップしているみたいだ。
急に弱気になったり、ものすごく寂しくなって、
どうしようもなくて、
自分が心を許せる人に抱きしめられていたくて、
ぬくもりを求めた。
そして、ヒロの胸は、ボクにとって、
もはや無くてはならない存在だった。
困ったとき、さびしいとき、憂鬱なとき、
いつでも、どんなときにでも、
ヒロが、体調の許す限り、
ボクを抱きしめて慰めてくれた。
ママのように。
ヒロは、いつも穏やかで、落ち着いていて、
安心感があったから。
そして、ボクのことを誰よりも分かってくれているから。
いつも何も言わなくても、ボクがヒロの隣にもぐりこむと、
そっと、ボクを引き寄せて、優しく抱きしめてくれる。
ボクらは、大きな、大きなキングサイズベッドに
2人で寝ている。
そう、ママが使っていた、あの白いレースのベッドに。
ママの思い出に浸りながら・・・・僕らは大学生になった。
ヒロは、パパのように医学部で医者を目指していた。
ボクは、ごく普通の大学生だった。
ある日、パパが、女の子を連れてきた。 同い年だという。
なんだか様子の変なコだ。 細くて小柄で、
中学生くらいにしか見えない。
幽霊のようにふら〜っと、パパに支えられながら立っている。
無表情だ。
「パパの親友のお嬢さんで、ノゾミさんという。
ヒロと同じ医学部にいる子だ。」
「先月、事故でご両親を一度に亡くした。
天涯孤独の身になってしまったんだ」
「今日から家族にしてあげてくれ」
「??」 ヒロとボクは、顔を見合わせた。
「ヒロ、知っている子? 大学で見かけたことある?」
「ううん。 気がつかなかった。
だって、まだ入学したばかりだし。」
「そうだよね。」
パパの説明によれば、事故で両親が目の前で亡くなって、
彼女だけ奇跡的に助かり、
ずっとパパの病院に入院していたらしい。
体の傷は治ったけれど、心の傷は深く、
心療科の先生たちがよい治療方法が無くて、
途方にくれていたところを、
可哀想に思ったパパが、手を差しのべたということらしい。
ずっと長いこと、外国に住んで、いくら英語が流暢に話せて、
理解できたとしても、
こんなときには、
母国語の日本語の環境のほうが回復を助ける。
パパは、そう考えたらしい。
それに、彼女は、パパの大親友の子供だったから。
その時、パパのポケベルが、けたたましく鳴った。
また急患の呼び出しだ。
「わるい、行かなければ。 ノゾミさんのこと頼んだよ。」
パパは踵を返して、病院へ戻っていった。
ノゾミを部屋の入り口に残したままで。
ノゾミは、いつまでも一人で立ってはいられなくて、
よろよろとこちらへ倒れてきた。
ボクたちは咄嗟に、腕の中に受けた。
ボクとヒロの真ん中にノゾミが倒れこんできた。
僕らはそのままよろめいて、
後ろにあったソファーに腰を落とした。
力無くうつむいたままのノゾミ。
何の感情も持ち合わせていないみたいだ。
ノゾミを包む暗く沈んだ空気が、
事故の痛ましさを物語っている。
ボクたちは、一体彼女に何をしてあげられるのだろう?
これから、どう、接したらいいのだろう?
途方に暮れそうだった。
お手伝いのハンナさんも当惑顔で、
ミルクティーを淹れてきた。
「クッキーは、いかが?」
と、ハンナさんは勧めてみるけれど、
うつむいたまま何も手をつけようとしないノゾミ。
ただ座っている、いや、支えられているだけ。
一人では、座っていることすら出来ない。
心も、魂も、もう、ここには存在していないかのようだった。
今のボクには、彼女の気持ちは、わかる。
そう、ママを亡くしたボクには。
その時、ヒロが、スプーンでお茶をすくって、
片手でノゾミの肩を抱き寄せて、
口のところにそっとスプーンをつけた。
唇の間にスプーンの先が触れたとき、わずかに唇が開いて、
ノゾミは、お茶を一口、
ごくん、と小さな音をたてて飲み込んだ。
ヒロは、無言で、もう一度同じことを繰り返した。
ノゾミは、ヒロにもたれて、ヒロの肩に頭を埋めるようにして、
何口かお茶を飲んだ。
「あらまあ。 ヒロ坊ちゃんは、もうお医者さんみたいですこと」
ハンナも感心していた。
ヒロは、昔、ママにしてもらっていたことを
真似してやってみただけだと、
恥ずかしそうに言った。
この日から僕らは、家族になった。
ノゾミは、ほとんど食べ物が喉をとおらず、
点滴で栄養分を摂取していた。
それでも、食事の時には、
みんなと一緒にテーブルにつくようにした。
ヒロがお茶を飲ませた時のように、隣に寄り添って、
支えながら、一口ずつ、口元に丁寧に運んであげると、
ためらいながらも、少しずつなら、
食べられるようになっていた。
これには、パパも驚いた。
「今まで、誰一人食べさせられることに成功した人は
いなかったんだよ」
そう言って、「ボクとヒロのおかげだね」、と、感謝してくれた。
ボクは、何もしていないけど、と、言うと、
「美味しそうに食べている姿を見せているじゃないか。」
と、パパとヒロは褒めてくれる。
「何もしていないんじゃない、ナオの存在自体に意味があるんだよ。」
「ボクは、いつもナオが美味しそうに食べている姿を見て、
おなかがすいてくるよ」
と、ヒロも続ける。 なんという褒め言葉。
そんなふうに言われると、なんだかボクも協力したくなってくる。
よい部分をみつけて、それを褒めてあげるって、大事なことだね。
何か手伝ってみようっていう気にさせるもの。
なんとなく、ノゾミの世話を積極的にするようになって、
気がついた。
ノゾミも寝つきが悪いことを。
それだけじゃない。 事故のことを思い出しているんだ。
啜り泣きが毎晩のように聞こえてくる。
怖い夢を見ているのかもしれない。
夜通し泣き明かして、朝には目を真っ赤にしている。
今夜もすすり泣きが聞こえてきた。
それもすぐ近くだ。
そっとドアを開けてみると、
廊下の端にノゾミがうずくまって泣いていた。
月の出ていない真っ暗な廊下に一人で
小さな肩を震わせて、床には「涙のため池」を作って。
「ノゾミ」
「・・・・」相変わらず返事はない。
今まで、ノゾミが話している声を誰も聞いたことが無い。
いつも、泣き声だけ。
ヒロも、気がついて、起きてきた。
「眠れないの?」
ノゾミの隣に並んでしゃがみこんで語りかける。
「おいでよ。 一緒に寝よう」
ノゾミの耳元でやさしく、囁いた。
「!!!!!!」 「ヒロっ」
「いいじゃない。 家族でしょ。 こんなに淋しそう。」
「家族だけど、女の子なんだよ」
「ナオだって、ママと一緒に寝ていたでしょ」
「それと、これとは・・・・」でも、反論できないな。
「おいで。」
ノゾミの両肩を抱えると、ノゾミは、すっと立ち上がって
ヒロについてきた。
ボクとヒロの間にノゾミが横になった。
とても小柄だ。 それに痩せている。
ボクは、ドキドキした。 女の子の隣で寝ている。
そういう経験がないわけではなかったけど
それと、これとは、別だ。
ヒロ、なんて大胆なヤツなんだ。
相変わらず落ち着いている。
ヒロは、そっとノゾミを引き寄せると、
腕の中に抱えて、抱きしめた。
「うっそ〜」
ボクは、一人でドキドキ。
ノゾミは?
もう泣いていない。
ヒロの胸の中に顔を埋めて目を閉じている。
まるで、ボクのようだ。
ボクの指定席にノゾミがいる。 ちょっと妬ける。
「大丈夫、心配しないで。
ずっと一緒にいるよ。 安心して。」
やさしく語りかけるヒロ。
まるでママのよう。 ・・・・ママのよう?
そうか、ヒロは、ママにしてもらったとおりのことを今、
ノゾミにしてあげているんだ。
だから、こんなに動きがスムースなんだ。
大胆なんかじゃない。
ノゾミは、クスンと、ひとつすすり泣きをして、
やがてヒロの胸の中で寝息をたてた。
ヒロは、何事もなかったかのように、もう眠っている。
ボクと違って、寝つきがいいんだ。
心がしっかり大人なんだ。
ドキドキしているのは、ボクだけか。
また眠れない。 今夜は、ヒロの指定席も使えない。
その時、ノゾミが寝返りを打って、
あろうことかボクの胸の中に顔を埋めてきた。
小さな寝息をたてて、ほんの少し泣き顔で、
それでも穏やかに眠っているノゾミを見ていたら、
いつの間にかドキドキすることを忘れていた。
穏やかに眠っている二人の隣で、
ボクだけ一人で眠れないのは不公平だ。
なんだか、ドキドキしていたことが、
バカらしく思えてきた。
女の子だけど、女の子じゃない。
今は、妹なんだ。
ヒロとボクの妹じゃないか。 家族じゃないか。
ええい、もう、どうでもいいや。
少しだけ、ノゾミのことをいとおしく思えてきた。
両親を一瞬にして失って、この世にひとりぼっちになって、
どんなにつらかったかと、ノゾミの気持ちを考えて、
自分と重ね合わせてしまった。
そんなことを、あれこれ思い巡らすうちに、
いつの間にか眠りに着いた。
to be continue・・・・
2008/3/29 22:13
小説「NAOTO」−1−(2) 小説「NAOTO」−1−
P2
いつの間にか眠ってしまったらしい。
誰かに抱きかかえられた。
消毒のにおい。 パパだ。
目を開けると、夜が明けるところだった。
空は白んで、小鳥たちが幸せそうに
裏庭でさえずっていた。
「ナオト、目が覚めたかい?」
「パパ」
「ナオトのベッドに戻ろうね。」
「ママが。」
ボクは、慌ててママを見た。
眠っている??
「ママ!!」「ママ〜!!!」
パパが、ボクのことをぎゅっと抱きしめた。
パパの目に涙が溢れていた。
天使はどこに行った?
ママを連れて行ってしまった?
パパは、ボクを抱きかかえたままその場に座り込んで、
ボクをきゅっと抱きしめて、そして震えた。
静かに泣いていた。
あんまりぎゅっと抱きしめられて
ボクは苦しかったけれど、
ママが逝ってしまった悲しみに比べたら、
もう、何も感じない。
何も感じないよ。
痛くない。
苦しくない。
悲しくない。
心が空っぽだ。
涙さえも出ない。
声も出せない。
パパも同じだ。 静かに泣いている。
小さく震えている。
ママの横たわっている白いレースのベッドの脇で。
時が、静かに、流れていった。

太陽が昇ってきた。 今日もよい天気だ。
綺麗な緑色した小さな木の葉が1枚、
ひらりと空を舞っていた。
ママなの?
東からの風に乗って空高く舞い上がっていった。
ママが言っていた星が出てくるまでには、
まだまだ時間があった。
もう何も考えられない。 何も感じられなかった。
ボクの体の中のどこかにある司令塔みたいなところで、
ボクを動かしているパイロットランプが
次々と消灯していくのをぼくは黙って見つめて、
そして最後の一つが消えたとき、
ボクは、暗闇の底に落ちていった。
ボクは、気を失った。
もう目が覚めなくてもいいと思った。
ママと一緒に天国に行きたかった。
気がついたら、自分のベッドの中で、
ヒロがそばに座っていた。
ボクの手を握って、じっとボクのことをみつめていた。
涙を浮かべていた。
「ヒロ」
「ナオ」
「ヒロ、ヒロ〜〜〜〜」
突然、ママが逝ってしまったことを思い出し、
ひどく悲しくなってきた。
これから、どうしたらいいの?
ママがいなくて、ボクはどうしたらいい?
ボクは、ヒロの胸の中に飛び込んで泣いた。
ヒロが病弱なことを忘れて、
思いっきりすがって泣いた。
ヒロは、ボクのことをよろけながら受け止め、
できる限りの力をこめて抱きしめてくれた。
華奢で、薄い胸板のヒロ、頼りない体とは裏腹に、
気持ちはしっかりしているヒロ。
暫く泣いて、ヒロの胸の音で我に返った。
少しゼイゼイしている。
いけない!
発作になるかもしれない。
慌ててヒロの胸から顔を上げて様子をうかがった。
「ゴメン、ヒロ、大丈夫?」
「ナオは?」
「うん」
「ナオ」
「・・・・」
ヒロは、小さな咳をコホッと一つして、
ゆっくり深呼吸を何回かした。
ゼイゼイした音は消えていた。
「ナオ、ママがいなくても、ボクがいるよ」
「・・・・」
「ナオ、今までママを独り占めにしていてゴメン」
「淋しかったでしょう? 許して」
「そんなこと・・・・いいよ」
また、ヒロの胸に顔をうずめた。
「ボクはママの代わりにはなれないけど、
ナオの側にずっといる。 約束するよ。
淋しいときにはいつでもボクがナオを抱きしめるから。」
「ヒロ・・・・」
「ボクは体が弱くて、いつも寝てばかりだけど、
ナオのこと誰よりも愛している。
世界で一番、ナオのこと愛しているよ。
ボクがナオのこと守る。」
「言い過ぎだよ」 ボクは、ヒロのことを見た。
それ、ちょっと照れくさいセリフだよ。
ヒロは、ボクの方をしっかりと見つめながら、
「本気だよ。 ナオのことが一番大切だ。」
「ヒロ・・・・」ヒロは、またボクのことを抱きしめた。
さっきよりもずっと長く。
やさしく抱きしめるその抱き方、
そっと、ささやく、その言い方、
ヒロがなんだか、ママみたいに思えた。
温かなヒロの胸の中でボクはママのぬくもりを感じた。
ゼイゼイいって小さく震えるヒロの胸の中にもう、
ママをみつけた。
ママ、こんなところにいたの?
星よりもずっと近いよ。
ずっと暖かい。 ママのぬくもりがある。
ボクは、眠ってしまった。
ヒロの胸の中で。 ヒロのいっぱいの愛に包まれて。
to be continue・・・・
いつの間にか眠ってしまったらしい。
誰かに抱きかかえられた。
消毒のにおい。 パパだ。
目を開けると、夜が明けるところだった。
空は白んで、小鳥たちが幸せそうに
裏庭でさえずっていた。
「ナオト、目が覚めたかい?」
「パパ」
「ナオトのベッドに戻ろうね。」
「ママが。」
ボクは、慌ててママを見た。
眠っている??
「ママ!!」「ママ〜!!!」
パパが、ボクのことをぎゅっと抱きしめた。
パパの目に涙が溢れていた。
天使はどこに行った?
ママを連れて行ってしまった?
パパは、ボクを抱きかかえたままその場に座り込んで、
ボクをきゅっと抱きしめて、そして震えた。
静かに泣いていた。
あんまりぎゅっと抱きしめられて
ボクは苦しかったけれど、
ママが逝ってしまった悲しみに比べたら、
もう、何も感じない。
何も感じないよ。
痛くない。
苦しくない。
悲しくない。
心が空っぽだ。
涙さえも出ない。
声も出せない。
パパも同じだ。 静かに泣いている。
小さく震えている。
ママの横たわっている白いレースのベッドの脇で。
時が、静かに、流れていった。
太陽が昇ってきた。 今日もよい天気だ。
綺麗な緑色した小さな木の葉が1枚、
ひらりと空を舞っていた。
ママなの?
東からの風に乗って空高く舞い上がっていった。
ママが言っていた星が出てくるまでには、
まだまだ時間があった。
もう何も考えられない。 何も感じられなかった。
ボクの体の中のどこかにある司令塔みたいなところで、
ボクを動かしているパイロットランプが
次々と消灯していくのをぼくは黙って見つめて、
そして最後の一つが消えたとき、
ボクは、暗闇の底に落ちていった。
ボクは、気を失った。
もう目が覚めなくてもいいと思った。
ママと一緒に天国に行きたかった。
気がついたら、自分のベッドの中で、
ヒロがそばに座っていた。
ボクの手を握って、じっとボクのことをみつめていた。
涙を浮かべていた。
「ヒロ」
「ナオ」
「ヒロ、ヒロ〜〜〜〜」
突然、ママが逝ってしまったことを思い出し、
ひどく悲しくなってきた。
これから、どうしたらいいの?
ママがいなくて、ボクはどうしたらいい?
ボクは、ヒロの胸の中に飛び込んで泣いた。
ヒロが病弱なことを忘れて、
思いっきりすがって泣いた。
ヒロは、ボクのことをよろけながら受け止め、
できる限りの力をこめて抱きしめてくれた。
華奢で、薄い胸板のヒロ、頼りない体とは裏腹に、
気持ちはしっかりしているヒロ。
暫く泣いて、ヒロの胸の音で我に返った。
少しゼイゼイしている。
いけない!
発作になるかもしれない。
慌ててヒロの胸から顔を上げて様子をうかがった。
「ゴメン、ヒロ、大丈夫?」
「ナオは?」
「うん」
「ナオ」
「・・・・」
ヒロは、小さな咳をコホッと一つして、
ゆっくり深呼吸を何回かした。
ゼイゼイした音は消えていた。
「ナオ、ママがいなくても、ボクがいるよ」
「・・・・」
「ナオ、今までママを独り占めにしていてゴメン」
「淋しかったでしょう? 許して」
「そんなこと・・・・いいよ」
また、ヒロの胸に顔をうずめた。
「ボクはママの代わりにはなれないけど、
ナオの側にずっといる。 約束するよ。
淋しいときにはいつでもボクがナオを抱きしめるから。」
「ヒロ・・・・」
「ボクは体が弱くて、いつも寝てばかりだけど、
ナオのこと誰よりも愛している。
世界で一番、ナオのこと愛しているよ。
ボクがナオのこと守る。」
「言い過ぎだよ」 ボクは、ヒロのことを見た。
それ、ちょっと照れくさいセリフだよ。
ヒロは、ボクの方をしっかりと見つめながら、
「本気だよ。 ナオのことが一番大切だ。」
「ヒロ・・・・」ヒロは、またボクのことを抱きしめた。
さっきよりもずっと長く。
やさしく抱きしめるその抱き方、
そっと、ささやく、その言い方、
ヒロがなんだか、ママみたいに思えた。
温かなヒロの胸の中でボクはママのぬくもりを感じた。
ゼイゼイいって小さく震えるヒロの胸の中にもう、
ママをみつけた。
ママ、こんなところにいたの?
星よりもずっと近いよ。
ずっと暖かい。 ママのぬくもりがある。
ボクは、眠ってしまった。
ヒロの胸の中で。 ヒロのいっぱいの愛に包まれて。
to be continue・・・・
2008/3/26 22:18
NAOTO −1− 小説「NAOTO」−1−
このストーリーは、フィクションです。
オリジナル小説です。
無断複写・引用は、ご遠慮ください。
小説「NAOTO」−1−
19xx年アメリカ、ロサンゼルス近郊。
とても静かな夜だった。
いつもよりも、ずっと静かだった。
白くて、大きな満月が天空で輝いて、
昼のように明るい夜空には、
まるでグラニュー糖をこぼしてしまったような小さな、
小さな星たちが、月の光に負けまいとして、
力いっぱい輝きを放ち空いっぱいにきらめいていた。
風はほとんど無くて、どちらかというと生暖かく、
暑い夏の訪れを感じさせるような
そんな、かんじの夜だった。
ママがベッドから起きられなくなって、
もう1ヶ月が過ぎた。
パパは、とても優秀な医者だったけれど、
それでもママのことを
元気にしてあげることができずにいた。
さっき呼び出しのコールがあって、
そんなママのことを心配しつつ、
急ぎ足で病院へ向った。
「すぐに帰るからね」と、言い残して。
今夜は、ここにいてほしかったのに。
いつも以上に、いてほしかったのに。
大きな、大きな家の中には、
病気で寝込んでいるママと、
ぼくの双子の兄のヒロ、
ヒロは、小さい頃から病弱で、
今夜も喘息の発作が出て、散々苦しんで、
そしてようやく薬が効いてきて、眠ったところ。
そして、淋しがりやで心配性のボク。
家族の世話をしてくれている、お手伝いさんの
「ハンナさん」は、今日も看病と家事で疲労しきって、
自分の部屋でぐっすり眠っているようだ。
きっと朝まで熟睡だろう。
羨ましい。 いつも、ぐっすり眠れるなんて。
きっとベッドに入ったら5分以内に眠れるタイプだ。
ボクと、真逆の。
今夜も、眠れない。 この頃は特に眠れない。
ママのことが心配。
ヒロのことも心配。
いつもいないパパのことも心配。
誰か、ボクといつも一緒にいて欲しい。
一人にしないで。
こんな夜には、ママの隣にもぐりこんで、
ママに抱きしめてもらいたい。
ママのぬくもりで、 ボクの心を暖めてほしい。
ママの胸に飛び込みたい。
心細くて、心にざわざわざわざわ、さざ波がたって、
いつも震えている。
誰か、ボクの手を握っていて。
ボクの心の揺れを抑えていて。
お願いだ。
涙が一粒、溢れてきた。
小さな白い頬をゆっくりと流れていった。
ボクは起き上がった。
やっぱり眠れない。 今夜も眠れない。
いけないと、言われていたけれど、
ママのいる部屋に向ってしまう。
大きな古い重たいマホガニーの木のドアを
そっと押してみる。
ほんのひと時でいいんだ。
少しでいいからママに触れていたい。
ママのぬくもりでボクの心を暖めてもらいたい。
寂しさを紛らわせてもらいたい。
いつまでも甘えているって思わないで。
人は、一生、心のどこかに、こんな気持ち
誰でも持っているんじゃないかな。
大人になるにつれて、その存在がだんだん曖昧に
なっていって、あるいは、
自分でコントロールできるようになって。
生きていく中で、甘えることは、
最重要事項ではなくなったり、
あるいは、別の形で残ったりして。
そして忘れる、人もいるだろう。
心の奥底にしまう人もいるだろう。
甘えたい気持ちが溢れているのなら、
ボクは自分の心を止めたりしない。
自分自身の心の動きには、いつも正直でありたい。
素直になりたい。 甘えたい時には、甘える。
誰かの迷惑になるかもしれないけれど。
ママのことは、いつもヒロが独り占め。
ヒロは病弱でベッドの中にいる時間のほうが、
遊んでいる時間よりも多かったから。
ママは、いつもヒロの傍を離れられない。
かわいそうなヒロ。
でも幸せなヒロ。
ママが側にいつも一緒。
ヒロのまわりは、ママの愛で、溢れている。
ボクも愛されていると分かっているけれど、
一緒にいる時間はヒロの方がずっと多い。
ヤキモチを妬いているわけじゃないけど、
やっぱりヒロが羨ましい。
重たいドアを少し開いてのぞいてみると、
部屋中が月明かりで白く照らされていて、
夜中なのにとても明るくて、大きな窓ガラスは、
まぶしく輝いていた。
真っ白なレースのベッドの中で
ママがこちらを向いていた。
ママも目を覚ましていた。
苦しくてねむれないのかもしれない。
ちょっと心配になった。
やっぱり来てはいけなかった。
パパとの約束を破ってしまったことで、
後ろめたくなって、
自分の部屋へ戻ろうとした時、
「ナオ、いらっしゃい」 背後から
透きとおった声でママがささやいた。
ドアの端に体をくっつけて、ボクはママを見た。
ママは、微笑んでいた。
苦しくないの?大丈夫?言葉にならなかったけれど
ボクはママにそうたずねた。 目で。
ママは、また微笑んだ。 そして頷いた。
「いいのよ」
魔法にかかったように、磁石でひっぱられるように、
ボクは、ふらふらと惹かれて
ママのベッドまで近づいた。
そして、いつものように、
そっとママの右側へともぐりこんでいった。
左側は心臓があるから、ママの負担になるから、
そんな配慮もできるようになっていた。
「ママ。」
「なあに?」
「ママ。」
ママとしか言葉にならない。
ママのぬくもりがボクを包む。
ママの愛がボクの心に沁みてくる。
病気なのに、ベッドに潜り込むなんて。
ボクはなんて甘えん坊なんだ。
でも、嬉しかった。
心の中に幸せが広がってきた。
顔をそっとママの体につける。
「見て、今夜は星がたくさん」
「うん」
「ナオは星が好き?」
「うん」
「星を見たら、ママを思い出して。」
「・・・・」
「ナオが空にある星の中から一つ選んで、
それを見てママを思い出した時、
ママは、ナオの心の中に入っていけるわ」
「・・・・」
ママ、何のことを話しているの?
遺言みたいじゃないか。
いやだよ。
言葉にならない。 ぎゅっと目を閉じた。
布団の中でママのつま先がボクの足に触れた。
爪の先があたって、ちょっと痛い。 でも暖かい。
ボクは、少し震えた。
なんだかとっても不安になってきて。
「ナオ・・・・」
「お願いがあるの。」
「・・・・」
ボクは、うっすら目をあけた。
ママがこっちを見つめている。
ガラスのように透きとおった瞳の奥が、
一瞬キラリと輝いた気がした。
「ヒロのこと、お願いね」
「ナオがいつも一緒にいてあげてね。」
「うん」
「ヒロとナオは、この世界でたった二人の兄弟よ。
いつも仲良しでいてね」
「約束してくれる?」
「はい」
「ナオ、ごめんね。 いつも側にいたいのに、
ナオのこと一人ぼっちにさせてばかりで。
淋しかった時もあったでしょう?」
「・・・・」
「ごめんね。」
ママは、ボクのことをいつもよりも、
ぎゅっと抱きしめた。
いつもよりも長く時間をかけて。
ほんの少し薬の臭いがした。
なんだかとても悲しくなって、
ママと一緒にいられるのに、ひどく寂しくなって、
涙が一筋流れて、ママの手の甲に落ちた。
ママの瞳にも涙が溢れそうになっていた。
満月の夜は明るすぎる。
ボクは悟った。 これは、別れの儀式なんだと。
ママの側には、もう、天使が迎えに来ているんだと。
どうしようもならないことを知っていた。
わからないくらい幼かったほうが、
むしろ幸せだったかもしれない。
ボクは、全てを理解できてしまった。
「ママ」
「ママ」
「逝かないで」
「ママ」 心の中はもう、涙で溢れかえっている。
喉の奥まで悲しみでいっぱいだ。
言葉にならない。
もっともっと伝えたい気持ちがあるのに。
さよならのときが近づいている。
時間を遅らせることができたらいいのに。
ボクにはどうすることもできない。
「ナオ、今夜はここにいて」
「うん」
「ナオと、ずっと一緒よ」
「うん」
「ナオ・・・大好き。」
ママは、目を閉じた。 息はしている。
とても浅くてか弱いけれど、息はしている。
きっと疲れたんだろう。
ボクは、ほんの少しだけ、ママから離れた。
少しでも負担にならないように。
ママがゆっくり眠れるように。
ほんの少しだけ、離れた。
ママのぬくもりが感じられるだけの距離は保った。
心がクラッシュされそうだった。
嗚咽を聞かれないようにしなければ。
下唇をかみしめた。 涙をこらえた。
そっと呼吸をした。
泣いちゃだめだ。
ママが心配してゆっくり眠れない。
泣いちゃだめだ。
ボクも目を閉じた。
ママのことずっと見つめていたいけど、
涙をこらえるために、目を閉じた。
ママが逝ってしまう。
ママが逝ってしまう。
パパ、早く帰ってきて。ママを助けて。
パパは医者でしょう?
ママを助けてよ。
ヒロも助けて。 ボクも助けて。
お願いだから。
・・・・to be continue
