2008/10/1  4:21

カバンがこわれる  弁護士・法律

 私は物をとても大切にする。これだけは自信がある。
 カバンも大事に使っているのだが、最近、仕事用にいつも持ち歩いているカバンのファスナーの不具合に悩まされてきた。
 そのカバンは、不動産や自動車やテレビを持たない私の持ち物の中では最も高価な部類に属する、L社製の何千円もする、私に言わせればかなり高級な黒革のカバンだ。
 しかし、ブランド品といっても、L社はれっきとしたカバン屋である。ファスナーにもそのL社のロゴ・マークが入っている。
 しかし、ファスナーだけはやっぱり日本のYKKに限るようだ。
 今日、ある用事で家庭裁判所にいたら、ついにファスナーが全然閉まらなくなり、まぁ開かなくなるよりはいいだろうが、いらついた私はついにこれは修理に出すしかないと判断した。
 しかし、実はそのカバンは、昨年の10月にも同じファスナーの不具合で修理に出したばかりなのだ。そのとき修理代だけで何万円もかかったのを私は忘れたくても忘れられない。
 私は、家裁からその足で銀座に出て、そのカバン屋に寄り、黒木瞳に似た店員に不具合を訴え、昨年修理してもらったばかりであることを告げた。
「また何万円もかかるようなら、御社のカバンがファスナーの閉まらないカバンであることをブログに書きますよ。」
 黒木は、恐縮しながら丁寧に応対してくれた。
「とりあえずお預かりさせていただきます。中の荷物はこの紙袋に移し変えていただけますでしょうか。」
 店員は、ブランド・カラーの堅牢そうな紙袋を差し出した。
「よろしくお願いしますね。」
 私は紙袋に荷物を入れかえて、雨の戸外に出た。
 しかし、しばらく歩いていたらその紙袋の取っ手が待ってましたとばかりに見事にブチ切れた。
 普段からいかに私が重い荷物を持っているかということがこうして実証されるとともに、取っ手のとれた紙袋がいかに始末に負えないかということを、私は確認する機会に恵まれた。さらに、雨の中傘をさしながら、ズッシリと書類とかが入った取っ手のとれた紙袋を抱えて歩くことがいかに人類に不自然な姿勢を強いるかということもよくわかった。それがこの日の最大の収穫であった。
 しかも、そういうときに限って携帯に電話がかかってきたのである!
 だいたい、私の携帯なんかに電話がかかってくるのは、@ホームで電車を待っていてもうすぐ電車が来るというとき、Aトイレに入っているとき、Bほかの電話をしているとき・・・の@からBのいずれかなのだが、こういう風に雨の中取っ手のとれた紙袋をかかえているときがCとして追加されるとは、今日このときまでさすがの私も予期していなかった。
 いずれにせよ、携帯を取り出すのに時間がかかっているうちに電話は切れてしまった。
 直後、着信履歴を見て、そこにこちらから折り返してみたら、明らかに老婆の声としか思えない声の持ち主が電話に出た。
「弁護士の市川ですが、今、お電話いただいたようですが。」
 私が言うと、その女性は「いいや。電話なんかかけていませんよ。」と迷惑そうに答えたのだった。
「そうですか。それは大変失礼しました!」
 私は電話を切った。明白な着信履歴が残っているけど、どうせ間違っているのは私だろう。私は“言った言わない”の争いを避ける傾向がある非常に弱い人間である。
 しかし気付いたら、かかえていた紙袋は雨でグシャグシャになりつつあった。
 いくらL社の紙袋でも紙袋は紙袋だ。紙袋は水に弱い。そのことも私はこの日身をもって学んだのだった。



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