2008/7/22  23:40

今日から仕事は自称小説家にします。  小説作成
ふと思い立って、また小説を書き始めてみましたよ。今度は完成するかな?

二〇〇七〇六二三一八三〇
夕暮れの道を少年は急いでいた。
六月になってずいぶん日が伸びていたので油断していた。少し前だったらもう真っ暗になっているところだろう。六時をまわったこの時間帯では多くの商店の明かりが街路を照らし出していたが、夕陽に照らされ人工の明かりはオレンジ色に上書きされている。
少年は小走りに歩道を駆け抜けると、目的の商店へ駆け込んだ。店の中にはショーケースが並んでいる。その向こうにからいらっしゃいませと声をかける女性店員を見つけ話しかけた。
「予約していた、天霧です」
店員は書類のようなものを確認すると、ニッコリ笑ってこういった、
「バースデーケーキのご予約ですね。少々お待ちください」
 そういって、店の奥から一箱のケーキを運んでくると、少年にそれを見せた。
「こちらでよろしいですか?」
 生クリームと色鮮やかなフルーツに彩られたワンホールのケーキの中心に―Happy Birthday mam―とチョコレートで書かれてあるのを見ると少年は満足げに
「はい、これです!」
 と応え、ケーキの代金を支払って店を出る。
 ありがとうございましたという店員の声を背中に聞きながら再び少年はまた小走りに街路に走り出た。
 急がなくては予定の時間に遅れてしまう。紙袋の中のケーキを気にしながらも焦ったように歩く速度は速まる。
 今日は母の誕生日。密かに父と相談して母を驚かそうという計画なのだ。日ごろ休むことなく仕事と家事に追われる母をねぎらういい機会になる。高校生にもなってとも思ったが、友人に聞く同年代の家庭に比べれば、少年の家族の仲は格段に良いといえた。母親の誕生日を祝うことに嫌悪感はほとんどない。
事前の打ち合わせで父はプレゼントを、少年はケーキを用意することになっている。今日の夕食にそれを渡そうというわけだ。いつもは帰宅の遅い父も今日は七時の夕食に合わせて帰ってくる。少年も遅れるわけにはいかなかった。
 歩きながら少年は考える。母の大好物である苺のケーキ。きっと喜んでくれるだろう。箱を開けた瞬間の母親の笑顔を思うと、自然と顔がほころんでくる。
 大通りから少し奥まった場所にある集合住宅地。その一角に少年の家はある。いまだ沈まない夕陽に照らされた大通りから街灯の照らす細い路地をいくつか曲がっていくと家々の明かりの先に少年の帰る家が見えてきた。
 景色はオレンジから暗い赤に変わってきた。しかし予定の時間には間に合いそうだ。少し暑いな。汗ばむ学生服を不快に感じながらも、少年の心はこれから始まる家族の団欒を思うと、歩く速度を落とすことはなかった。もう、玄関は目と鼻の先にある。
「ただいま」
 母親に気付かれてはいけない、平静を装って玄関の扉を開けて中に入っていく。返事はない。
「ただいまー!」
 もう一度言いながら、玄関を上がると家の中は、窓から差し込む沈みゆく夕陽に照らされて暗く、それでいて妙に赤く染められていた。
 少年は、いつもなら居間やキッチンの明かりがついているはずと思い、いぶかしみながらも廊下を歩いて行った。両親は出かけたのだろうか。いや、今日は三人そろって食事をするはずだ。出かけることはないだろう。汗で湿った学生服がやけに不快に感じる。どことなく息苦しくなって、シャツの胸元のボタンを一つ外した。
「お母さん、ただいま。お父さんも帰ってるんでしょ?」
暗い赤に染め上げられた居間の照明のスイッチを指の感触で探す。今はこの仄暗い夕闇が嫌だ。
ぬるり。
スイッチを探すために触った壁の感触がおかしい。そんなに汗をかいていただろうか。指先に目を凝らすと妙に赤黒い。窓からさす光はもうわずかだ。
「お父さん、お母さん」
 無言。
 ぴちゃ。
 少年の声に反応するでもなく聞こえてくるのは滴る水の音だろうか。
 壁の感触を不快に感じ、明かりをつけずに水音のする方へ視線を向けた。音はまだ聞こえる。
ぴちゃ。
 赤黒く染め上げられた見慣れた風景。ソファがあってテーブルがあって。
 赤黒く染め上げられた見慣れない風景。ソファの上にははらわたを引きちぎられた父親の体があって、テーブルの上には上半身のない母親の体があって。
 母の誕生日を祝うはずのキッチンには、母親の体を貪る人影があった。
 ぴちゃ。
 母親の体からは、もはや用をなさなくなった血液が雫となってこぼれ落ちていた。
「おか……あ……さん……」
 そう呼びかけると、母は人影の口元からズルリと落ち、ゴトンと鈍い音をたてた。少年は眼をそらすことさえできずにいた。口の中が乾きすぎて舌が張り付き叫ぶこともままならない。少年は自分の両拳が震えているのにも気付いてはいなかった。握りしめた拳からは血が滴り、いまだ放すことができないケーキの袋を濡らしている。渡す相手のいなくなったケーキの袋を。
 ぴちゃ。
 鰐のごとき口元から母親のものであった血を滴らせ人影が少年を見つめる。少年は眼をつぶることもできず見つめ返すほか仕様がなかった。
仄暗い闇にまぎれたそれは人であると言えば人らしい形はしていた。しかし人間とは違うことは薄闇の中でもはっきりとわかった。その眼は蛇の目によく似ていた。体は硬質な鱗状の皮膚におおわれているように見える。血にまみれた喉もとが大きく上下するのがおぞましく思われた。そして身長ほどもある長い尻尾がゆるゆると動く様子がいやでも目に入ってきた。
 ぴちゃ。
 少年の意識の中では、母親がケーキの前で笑いそれを自分と父親が祝う姿が思い描かれた。目の前の変わり果てた母の姿を見ていても。
ぴちゃ。
ああ、母親のものであった血液がこぼれおちる。
視線の先で影が動いた。
少年の目は最後にかつて母親のものであった頭部を映していた。そして……。
ぴちゃ。

と、とりあえずこんな感じ。さてさてどんな物語になるのやら。
それでは、あしたまにあ〜な。

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