2007/9/6  15:13

「分かりやすさ」への警戒  最近の報道から思うこと

講義で教えているとき、わかりやすくしようとすればするほど、不正確な情報を
提供しているんじゃないか、と不安に思うことがあります。
もちろん、明らかな「間違い」を教えているわけではありませんが、わかりやすく
するためには、物事の枝葉を切り落とし、シンプルな形にして提示します。
最初からいきなり複雑な話をしても、学生さんが戸惑い、「法律なんて難解だから
嫌だ」と思うだけだからです。
まずは大枠、幹の部分だけ話して、少しずつ細部に入っていく・・・特に、TOTOは
徹底してこの手法をとっています。「わかりやすい」と評判ですが、当の本人は、
「オレの授業で全部が分かったと勘違いされるのは・・・」と当惑しています。
そう、もしその後、「細部」を聞く機会がなければ、「間違い」ではないけど、
「不正確」な知識のままになってしまいます。

光市の母子殺害事件に関連して、ちょっとした騒動が起こっています。
(騒動の中身については、satosho先生の記事をご参照下さい)
この事件では、犯行当時18歳だった少年に対する刑罰として死刑が適当かどうかが
問題となりました。最高裁では、少年による犯行であったことは死刑を選択するか
どうかの判断にあたって「相当の考慮を払うべき事情」であるが、「死刑を回避
すべき決定的な事情」とはいえない、として、無期懲役とした原判決を破棄し、
死刑を回避すべき特別な事情があるかどうかを調べるため、高裁に差し戻しました。
これは、「特別な事情」のない限り、死刑だというわけですから、実質的には、
死刑判決が出たも同然です。
差戻し審では、少年の弁護士(21名の弁護団です)から、少年には殺意も強姦する
意思もなかったことが主張されました。これは、世間をあっと驚かせました。
「往生際が悪い」と思った人も多いでしょうし、少年が母恋しさゆえに、「甘える
つもり」で被害者に抱きついた、被害者の遺体を犯したのは死者を復活させる儀式
だった、などの主張に、多くの人は、不快感、不信感を持ったことでしょう。
確かに、「何を今さら・・・」の感もあるし、最高裁判決を踏まえた場合、被告人の
弁護士として争うべきはその点か、という気もします。
しかし、被告人の弁護士として「全くあり得ない主張」ではありません。

少年が正しいことをした、と思う人はまずいないでしょう。
何の罪もないのに残虐に殺害された母子、そして、その遺族は気の毒です。
これは、とてもシンプルで分かりやすい・・・
しかし、どんなに悪いことをした人も、問答無用で死刑になるわけではありません。
何が起こったのか(つまり、本当に悪いことをしたのかどうか)は、裁判を通して
確定されます。それまでは、「悪いことをした」と疑われているにすぎません。
さらにいえば、検察官が「クロ」と証明し、それが裁判官によって認められるまで、
被告人は「シロ」です。
そのうえで、どれだけの刑罰を与えるのが適当かが、法律の規定に則って判断され
ます。前代未聞の「悪」であれば、法律の定める制裁が軽すぎることもあります。
だからといって、勝手に重い制裁を科すわけにはいきません。
こうした刑事裁判手続は、いわれない罪に問われ、弁解の機会もなく、国家により
抹殺された多くの人たちの犠牲の上に、整備されたものですが、一般の感情には
しばしば合致しません。まるで、悪者を助けるための手続に見えるでしょう。
悪い人は罰を受けるという単純な構造に比べると、いろんな考慮が入って、随分
分かりにくいからです。

「弁護活動の意味を世間に誤解させた」責任での懲戒請求・・・H弁護士の
理屈自体は、本来、少し「分かりにくい」のですが、世間は、「悪いやつに
味方する、けしからん弁護士への制裁を・・・」と極めてシンプルな主張
として受けとめたのでしょうね。「分かりやすく」、共感を得やすい言葉を
飛び交わせ、国民を知らぬ間に「誘導」する最近の選挙を彷彿させます。
と、今度は、被告人の弁護側から、「けしかけた」H弁護士の責任を追及する
ための提訴・・・これも、実に単純明快で「分かりやすい」理屈です。
この提訴で、「泥仕合」になってしまった、という指摘があります。まさに、
 同感です)

「分かりやすい」こと自体、悪いことではありません。
けれども、「分かりやすさ」のために何がそぎ落とされているのか、に目を配る
必要があります。そして、「分かりやすい」説明で問題の大枠をつかんだうえで、
一歩踏み込んで問題を捉えなければならない、その点から、マスコミの責任は、
重大である、とも思います。



2007/9/9  4:50

投稿者:MOMO

あはは、大丈夫。KAZUははさんがいますから(笑)そういえば、きれいな全集本が出てるね、萩尾望都…ああいうの見ると、また買いたくなる(涙)…
台風でお休みだったんですね、被害はなかったですか。学校は苦手でも、そういう急な変更は一層苦手ですよね。

2007/9/9  2:01

投稿者:mikapon

ここで「メリーベルになって、エドガーとアランに会いたい!」なんて言ったら浮いちゃうじゃないか〜〜〜〜!(ああ、言ってしまった・・・・)

やっと学校が始まったのに台風で休みになり、息子は「がっこう、がっこう」と訴えてきます。
そんなに「学校好き」じゃないくせにいいい。
日頃のペースが乱されるのが嫌なんですよねえ。
来月、苦手な学校祭があります。
調子を崩さないでいて欲しいですな。

2007/9/8  7:51

投稿者:MOMO

みかぽんさん、ありがとう!そういっていただけると、とてもうれしいです。
今回の話も、ホント、不可解です。H弁護士の理屈は、こんなに大騒ぎになってからつけたのかなぁ、と穿った見方もしています。ちなみに、H弁護士自身は懲戒の申立をしておられないようですね。話の成り行き上、「文句があるなら、こういう手段がある」と提示したところ、予想外の反応があったので、実は、戸惑っておられるのかもしれません。キャラ的にそれを真正面から認めることはしないでしょうけど!?
みかぽんさん、萩尾望都の話題(ここで出すのか!)でも遠慮なく書き込んでくださいね((爆))。

2007/9/8  2:03

投稿者:mikapon

久々の書き込みです。
めったに書き込みしませんが、この手の話は結構好きです。
ももちゃんとこはマスメディアとはちょっと違った見方をするのでおもしろいんですよね。
今回のことも「これってどうよ?」と思っていたことが書かれていて、いろいろためになりました。
またいろいろ勉強させてくださいね〜。

2007/9/7  9:04

投稿者:MOMO

ありがとうございます。はい、この記事に限らず、過去、この種の記事にはコメントがつきにくい傾向にあるのですが、それでもまぁ、書いておこうか、と(笑)・・・旬の話題ですからね。
この被告人の弁護団の手法については、思うところがいろいろあるのですが、それでも、それは弁護活動として許される範囲だろうと思いますし、どうやら、H弁護士も弁護内容や手法自体を非難しているわけではなさそうです(「非常識」とは評価しているようですが)。そうすると、なぜ「懲戒」なのか・・・やり方が気に入らないから「懲戒」だ、なんてことになったら、刑事弁護なんて成り立ちませんし、「弁護活動の意味を誤解させた」という意味での「懲戒」ならば、それは少し筋違いというか、矛先が違うんじゃないかなぁと思います。いずれにせよ、こんな状況で、「裁判員制度」導入はやはりちょっと問題じゃないかなぁ、とも・・・
台風直撃でしたね、大丈夫でしたか。今朝もまだ、交通が乱れているようですね。

2007/9/7  2:08

投稿者:satosho

トラバありがとうございました。いつもMOMOさんの記事には、コメントが沢山つくのですが、これにはなかなかつきそうにないですよね。あたりまえのことなんでしょう。誰しも極悪重大犯罪の被告人弁護士の話など、すすんでコメントしたいとは思わないものだと思います。
私も自分のブログに書いたものかどうか、少し躊躇しました。でもやっぱりねえ、法曹倫理を教えている人間ですから、無視はできない。というわけで少し文章を書きましたが、ほんとに悩んでいます。どうなんだろうこの事件。でも少なくとも担当弁護士達に対する懲戒申立は不適切であると思っています。
 暴風雨の中の関東地方からの書き込みでした。

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