2008/8/5  20:27

デヴィッドのこと  ニュージーランド

朝の10時前に不動産業者の担当の方から電話がありました。入居審査終了、結果は○(マル)だそうです。っていうか早いっすね〜。さすがは日本。これから初期費用の計算がされ、連絡があとで来るそうで、それが終わればなんと木曜の朝には鍵をもらえるという話。いやあ早い早い、さすがは日本の業者さん。


* * *


さて話を3年ちょっと前のニュージーランドに戻しましょう。
翻訳の件が終わって何ヶ月も経ったある日、ナオミが久々に電話をかけてきて夕食に招待してくれました。今度はなんと、ボーイフレンドを紹介したいということで。いわゆる「ふつうの」彼氏ならわざわざ筆者を呼んで紹介する必要はなかったのですが、なんと相手はイタリア人。筆 者は最初の語学留学の時にイタリア人の友人が何十人とでき、彼らを訪ねてイタリア旅行に3度も4度も出かけており、ニュージーランドまでもそのうち一人が遊びに来たりするイタリア人通なのです。(決して「イタリア通」ではないのがポイント)

それでまた丘を登ってナオミの家に行くと、大柄なボディにスーツとYシャツをざっくりと着、髪と髭を盛大に伸ばした男が出迎えてくれました。スーツ、ドレスシャツ、長髪、髭、どれもこれもニュージーランドではそれほど見かけないものですが、これが全部ひとりの人間にくっついていると明らかに外国人、それもラテン系だ としか思えません。案の定これがデヴィッドでした。

「ダヴィデじゃないのかい」
「いや、デヴィッドだ。D, e, v, i, d.」

英語で言うDavidという名前はイタリアではDavideになるはずなのでそう聞いたのでしたが、なんとこの男はDevidなどという不可思議な綴りなのでした。しかし事実に勝るセオリーなし。本人がそう言うのだからそうなのでしょう。

夕食のテーブルでワインなど飲み飲み、イタリア話に花を咲かせていた我々でしたが、ひとつ気になったのはデヴィッドの、ナオミに対する態度でした。キッチンであれをしろとかこれをしろとか、自分はテーブルについたままで色々指示を出します。男女同権の気風が強力なニュージーランドではこれはいけません。ニュージーランド人女性としては「わたしはアンタの使用人じゃないのよ!」などと叫びたくなるのではないでしょうか。そのうち笑えない状況に陥りそうだったので内心ビクビクしていた筆者でしたが、ナオミは驚くほど我慢強く、デヴィッドの指示に従っていました。

これはきっと日本人のお母さんとともに育ってきたナオミだからこそ耐えられるのだろうと思いました。しかし不思議なのはデヴィッドです。確かにイタリアでは料理は主に女性の仕事ですが、ふつうここまでうるさく言いません。少なくとも筆者が寝泊まりさせてもらったイタリアの友人たちの家庭では、旦那が奥さんにそんなふうにするところは見た事がありませんでした。もちろん、わたしがゲストとしてその場に居たということもありますが、今ここではわたしの目の前でそんな光景が展開されているわけで。

さて食事は終わってもまだまだ話に花を咲かせていた我々ふたりでしたが、ふとデヴィッドがこう言いました。

「ナオミは特別なんだ。ナオミは、他のニュージーランド女とは違う」

デヴィッドによると、ニュージーランドの女性は男女平等を意識しすぎており、やることなすこと男性的である。しかし、女が男の真似をすることが男女平等というものではないし、だいいち女性の女性らしい魅力が失われてしまう。それが彼の主張だったのです。デヴィッドはイタリアで言うところの「女らしさ」をナオミの日本人的なところに見いだしたのでしょう。きっとそれで、イタリアの男女関係のパターンを実地でナオミに伝えようとしていたのでしょう。

いつナオミが爆発して関係がご破産になるかと思っていた筆者でしたが、3年前にナオミが女友達と一緒に日本に来た時、まだ続いていると聞いて驚きました。そして今回はデヴィッドとナオミ、二人でナオミの親族参り。まるでハネムーンではないですか。でもまだ結婚も婚約もしていないというし、いったいどうなっているのやら。ちょっとわくわくしつつも二人を我が家に迎えたわたしでした。

例によって長髪に髭、服装こそバケーション用のカジュアルなものでしたがけっこう上等そうな、小さなイタリア国旗が付いた服を来て現れたデヴィッドは何も変わっていませんでした。まずわたしに炎天下の中、妥協の無い強力なハグをくれます。嬉しいが暑い。続いてうちの母の両ほほにキス。初対面の、日本人の婦人が相手でも堂々とイタリア式に振る舞います。さすがはイタリア人。

そして三人で長々と話をしたのですが、気付いたのは二人のぴったり感。話を主導しているのはデヴィッドですが、ナオミがいいタイミングで色々なことを言い、まるでデヴィッドが話しやすいようにサポートしているかのようです。まるで筆者とデヴィッド&ナオミチームの対話、まるで1対1で話をしているかのような感覚です。そして何よりも、二人とも以前にも増して幸せそうです。

しかし必ずしもデヴィッドばかりが話の中心になっているわけではありません。ナオミには「日本語で話す」という切り札があり、自分が話したいことがあるときはこれを使えばいいわけで、日本語はあいさつ程度しか知らないデヴィッドは簡単に横にはじかれてしまいます。流暢なナオミの日本語をしばらく神妙な顔で聞いているデヴィッド。それを察したか、スピーチをを切り上げて話の主導権を戻してあげるナオミ。再び水を得た魚のようになるデヴィッド。そう言えば、イタリア人の友人がかつてこんなことを言っていました。

「イタリアの家では、いちばん偉そうにしてるのはパパだけど、いちばん権力があるのはママなのよ」

余談ですが、デヴィッドは今年の初めごろにニュージーランド市民権を取得しました。このまま行くと、ニュージーランドにおいて伝統的なイタリアン・ファミリーができそうな勢いです。



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