2006/7/5 21:44
第26話 キャリック・オン・シャノンと湖上の古城 アイルランド旅行記(1)
3月19日、ダブリンから北へ。
昨晩ダブリン国際ユースホステルでガイドブックを念入りに読んでいて、北に行こうと決めた。なぜかというと、面白そうなところはアイルランド全土にあるものの、北部にはそういう場所が密集しているかのように思えたからだ。
ガイドブックをめくっていて気になった場所は、ロッホ・キイ森林公園、スライゴ、デリーもしくはロンドンデリー、「巨人の道」、ベルファストなど。それがすべて北にあり、ダブリンから時計回りに北を一周すればほとんど回れそうだった。というわけで北へ。自分はゴールウェイ行きのバスに乗ったのと同じバス・ターミナルでバスに乗り、北にある小さな村へ向かった。その名はキャリック・オン・シャノン。
Carrick-On-Shannonという名前は「シャノン川に浮かぶ船」という意味らしい。それを読んだだけで、川のほとりに建つ小さな村のイメージが浮かんだ。それに加え、ガイドブックによると、近くに森林公園があり、その湖の上には古い城が浮かんでいるという。なんて絵に描いたようなヨーロッパ的風景なんだろう。きっといいところに違いない。それにしても便利だな、このガイドブックってのは。生まれてこのかた気づかなかったが。
バスに揺られること約5時間、思っていたとおりの小さな村に着いた。まずはホステルマップを参考に、村唯一のホステルの方へ。ここは学校みたいな大きな建物で、多きなゲートがあって、入ったところは広い庭だった。建物の二階にはテラスがあり、くつろげるようになっている。
「えーすみません」
沈黙。
「誰か、いますか?」
ノー返事。
というわけで不本意ながらまたB&Bを探すことにした。前もって電話の一本でも入れておけばよかっただろう。それは今までの失敗・・・もしくは経験から明らかである。しかし当時はまだまだ英語で電話をすることには抵抗というか、恐怖のようなものがあったのだ。要は怖かったわけである。そんな自分が数年後にはニュージーランドで電話番などして働いていたのだから、人生はわからないものだ。
メインストリートを下ってちょっと左手に入ったところに、民家が並んでいた。そしてそのうちの二つにB&Bの看板が出ていた。さて、どうしよう。どっちがいいだろうか。そこへたまたま年配の女の人が歩いて来たので聞いて見た。
「あのうすみません、宿をさがしてるんですが、どっちのB&Bがいいでしょうかねえ」
地元の人に観光者向け宿泊施設の情報を尋ねる。まったくOUT-OF-POINT、すなわち的外れ。今の自分なら口が裂けても言わないだろうが、当時の自分はそんなこと考えすらしなかった。そして、それなりの結果は出たのだった。
「どっちがいいかは知らないけど、この二軒は親子でやってるのよ。向こうがお母さんの家で、こっちが娘さんの家」
なんと、母子が隣同士に住み、同じ商売を営んでいると言うほほえましい状況だった。ちなみに筆者の実家も祖父母宅に隣接して建っているので(職業は違うが)、親近感も湧いた。
「へええ、そうなんですか。じゃあ、お母さんの方に行こうかな、経験豊富そうだし」
「確かにそうね。じゃあまたね。いい滞在を」
お祖母ちゃんっ子だった筆者が「お母さんの方の宿」を選択したのは半ば必然的であったかもしれない。訪れると部屋はバッチリ空いており、一泊16ポンドかつen suite、つまり部屋の中にシャワーがあるタイプだ。すぐさま決め、二つセットになった鍵を受け取った。説明によると一つは客室用、自分の部屋の鍵だ。そしてもう一つは玄関のドアの鍵。ちなみにこのオーナーたちの居住区は二階、客室は一階にあり、どちらも同じ玄関からアクセスできる。
「あのう、門限はありますか?」
「え?」
「ええと、夜の何時までには帰らなければならないような時間は、ありますか? だってほら、玄関、同じじゃないですか」
「いいのよ、いつ帰ってきても。そのための鍵なんだから」
どうやら、自分が考えていたように夜中は玄関を内側からしっかり閉めるようなことはしないし、自分が何時に帰ってきても気にしないらしい。無用心と言うかおおらかだというか、さすがはアイルランドの片田舎。
荷物をおろしてちょっとくつろいだ後、外へ出た。明日はスライゴに行くから、今日のうちに観光してしまおう。あのガイドブックに乗っていた「湖上の古城」(原文ママ)を見に行こう。そういうわけで「ロッホ・キイ森林公園」へ徒歩で行く事にしたのだが、これがまたけっこうな苦難の道のりだった。
(続く)
