2006/11/7 22:30
最後の旅(8) イニシュモア島の夜更け アイルランド旅行記(2)
B&Bの部屋に着くと、暖房の温かさを感じるとともに頭がもっとはっきりしてきた。
それにしても、珍しい目に会ったものだ。ガイドブックによると、だいたいイニシュモア島に来る人にとってはダン・エンガスの遺跡とやらが旅のハイライトになるらしいが、自分のハイライトは島の変態的な老人に会って変態的な架空の物語を聞かされたことになってしまった。まあ、こんなこともあるのだろう。後は寝るだけだ。明日のフェリーは昼前だから、早く寝て早く起きないと。
自分のベッドに座ってそんなことを考えていると、ふと、ロバートがこっちを見つめているのに気づいた。振り向くと目が合って、ロバートは笑みを浮かべた。
「どうだ、楽しかったかい」
ああ、ロバートは自分とあの老人のことなど知らないのだ。もちろん、その後でマットが自分に耳打ちしていたことも聞こえていなかったのだろう。自分は自分自身の正直な気持ちに逆らって、全身全霊をかけて笑顔を作り、「ああ、最高だったよ」と答えた。
「そうか、それはよかった」とロバート。少しぎこちない笑いだったかもしれないが、ロバートは信じてくれたようだ。
「ところで」
そうロバートが言った。
「わざわざ一緒に来てくれてありがとう。おかげでいい旅になったよ。こんなに楽しかったのは久しぶりだ。君は、いいやつだ」
You are a nice boy. そう言うとまた笑顔になったロバートは、自分の目をじっと見つめていた。
あれ? なんだこの空気は?
何となく・・・それは本当に微妙だったが・・・違和感があった。それは目に見えず、口に出して説明する事もできないのだったが、今までのロバートとは何かが少しだけ違っている。その違和感に自分自身が気づくのを邪魔するかのように、自分は「You are very welcome」と言った。
ロバートは黙っていた。顔は笑ったままだ。そして、ふとこんな事を言った。
「ちょっと失礼してもいいかな、日課があるから」
そう言いつつ、ロバートは荷物を入れていたクローゼットの方に歩いていった。日課? 不思議に思っていると、ロバートは鞄の中から地味な色の衣類を出し、持って帰ってきた。それは寝巻きらしいが、今言った日課と何の関係があるのだろうか。
「よいしょ」
そんな感じの掛け声をかけるとともに、ロバートは今まで着ていたシャツを脱いだ。その下に着ていたTシャツも脱ぎ捨て、上半身裸になった。腹が出ているから今まで気づかなかったが、けっこうたくましい胸と腕をしている。そして彼は、鞄から出した衣類の中から、妙な色のタンクトップを出し、着た。
不思議なタンクトップだった。ベージュの生地に、赤い細いひっかき傷のような横線が何本も引かれていた。いったいどこで買ったのだろう。こんな奇抜な服、そのへんでそうそう売っているものではないと思うが。そう思っていると、ロバートはベルトをゆるめ、今まで履いていたジーンズを足元に落とした。
あっ、と思った。どこにでもあるようなジーンズの中から出てきたのは、真紅の、ビキニタイプのブリーフだったからである。それも、かなり生地の少ない。
ふと、それをまじまじと眺めているのが気まずくなり、赤いブリーフから目をそらして彼の表情を伺ったのだが、彼は仁王立ちになり、何とも言えない表情でこっちの顔を見ていた。それは、悪戯をした子供が、まだそれに気づいていない両親の前でするような顔だった。無表情でいようとつとめてはいるものの、なにか嬉しそうな気配がひしひしと伝わってくるのだった。
沈黙を破ったのはロバートだった。
「毎晩寝る前に、これをするんだよ」
嫌な予感が全身を走りぬけた。さっきのパブでの老人の顔が脳裏に蘇ってきた。しかし、一体これから何が始まろうとしているのかは、全く予想できなかった。それでも自分の目は半自動的に左方向の奥を盗み見ていた。廊下に通じるドア。距離は4メートルくらい。
「見てくれ」
ドキッとした。視線をドアから戻そうとした瞬間、ロバートがそう言ったからだ。い、一体何を・・・おそるおそる、しかし平静に見えるよう努めつつ、自分は声の方を見た。そして、全く予想外の光景を見た。
(文字数制限オーバーのため、不本意ながら明日に続きます)
それにしても、珍しい目に会ったものだ。ガイドブックによると、だいたいイニシュモア島に来る人にとってはダン・エンガスの遺跡とやらが旅のハイライトになるらしいが、自分のハイライトは島の変態的な老人に会って変態的な架空の物語を聞かされたことになってしまった。まあ、こんなこともあるのだろう。後は寝るだけだ。明日のフェリーは昼前だから、早く寝て早く起きないと。
自分のベッドに座ってそんなことを考えていると、ふと、ロバートがこっちを見つめているのに気づいた。振り向くと目が合って、ロバートは笑みを浮かべた。
「どうだ、楽しかったかい」
ああ、ロバートは自分とあの老人のことなど知らないのだ。もちろん、その後でマットが自分に耳打ちしていたことも聞こえていなかったのだろう。自分は自分自身の正直な気持ちに逆らって、全身全霊をかけて笑顔を作り、「ああ、最高だったよ」と答えた。
「そうか、それはよかった」とロバート。少しぎこちない笑いだったかもしれないが、ロバートは信じてくれたようだ。
「ところで」
そうロバートが言った。
「わざわざ一緒に来てくれてありがとう。おかげでいい旅になったよ。こんなに楽しかったのは久しぶりだ。君は、いいやつだ」
You are a nice boy. そう言うとまた笑顔になったロバートは、自分の目をじっと見つめていた。
あれ? なんだこの空気は?
何となく・・・それは本当に微妙だったが・・・違和感があった。それは目に見えず、口に出して説明する事もできないのだったが、今までのロバートとは何かが少しだけ違っている。その違和感に自分自身が気づくのを邪魔するかのように、自分は「You are very welcome」と言った。
ロバートは黙っていた。顔は笑ったままだ。そして、ふとこんな事を言った。
「ちょっと失礼してもいいかな、日課があるから」
そう言いつつ、ロバートは荷物を入れていたクローゼットの方に歩いていった。日課? 不思議に思っていると、ロバートは鞄の中から地味な色の衣類を出し、持って帰ってきた。それは寝巻きらしいが、今言った日課と何の関係があるのだろうか。
「よいしょ」
そんな感じの掛け声をかけるとともに、ロバートは今まで着ていたシャツを脱いだ。その下に着ていたTシャツも脱ぎ捨て、上半身裸になった。腹が出ているから今まで気づかなかったが、けっこうたくましい胸と腕をしている。そして彼は、鞄から出した衣類の中から、妙な色のタンクトップを出し、着た。
不思議なタンクトップだった。ベージュの生地に、赤い細いひっかき傷のような横線が何本も引かれていた。いったいどこで買ったのだろう。こんな奇抜な服、そのへんでそうそう売っているものではないと思うが。そう思っていると、ロバートはベルトをゆるめ、今まで履いていたジーンズを足元に落とした。
あっ、と思った。どこにでもあるようなジーンズの中から出てきたのは、真紅の、ビキニタイプのブリーフだったからである。それも、かなり生地の少ない。
ふと、それをまじまじと眺めているのが気まずくなり、赤いブリーフから目をそらして彼の表情を伺ったのだが、彼は仁王立ちになり、何とも言えない表情でこっちの顔を見ていた。それは、悪戯をした子供が、まだそれに気づいていない両親の前でするような顔だった。無表情でいようとつとめてはいるものの、なにか嬉しそうな気配がひしひしと伝わってくるのだった。
沈黙を破ったのはロバートだった。
「毎晩寝る前に、これをするんだよ」
嫌な予感が全身を走りぬけた。さっきのパブでの老人の顔が脳裏に蘇ってきた。しかし、一体これから何が始まろうとしているのかは、全く予想できなかった。それでも自分の目は半自動的に左方向の奥を盗み見ていた。廊下に通じるドア。距離は4メートルくらい。
「見てくれ」
ドキッとした。視線をドアから戻そうとした瞬間、ロバートがそう言ったからだ。い、一体何を・・・おそるおそる、しかし平静に見えるよう努めつつ、自分は声の方を見た。そして、全く予想外の光景を見た。
(文字数制限オーバーのため、不本意ながら明日に続きます)
