2008/8/4  7:37

カミさんについて  倫理学
カミさんについて

なにが「みやび」だ! ゴダールは、志賀直哉や長嶋茂雄にも似て、たしかに「高貴noble」には違いないだろうが、「闘争」を欠いている。こんなことを言えば、どうせその音響と画面の高度な組み合わせそのものが、まさに「それ」なのだという反論が帰ってくるだろうが、やんごとなき「麿」こと浅田彰をみても明らかなように、「作品の完成度」とかいったものを尺度として至極尤もらしい分類に感けながら、肝心の分析を蔑ろにする「中毒者」の自己満足は畢竟、現状に対しなんの効果も及ぼすことがない。というのもそうした中毒者らが、「空無」に仕えて「バリケード」に立て籠もる者、いいかえれば、現実を内面登録するに感けて、「終りなき当為」としての容赦ない認識あるいは現状の揚棄を促す「理念」の働きを斥ける者でしかないからである。
とどのつまり、ゴダールとは「文学」の外においては書くことも話すこともできない「カミさん」である。それは大阪出身で、もと漫才師である「武」のカミさんとは大違いである。カミさんの名である幹子とは、『HANA-BI』の砂浜に置かれた倒木であり、そこで横軸をなすものである。それは「武」の実部(相棒)なのだ。それは「武」の「幹」(stock)であり、「武」がそこから「枝」(branch)を広げようと意図していることは明白である。したがって、そこには「信用」(stock)の問題がある。実際、かのバイク事故によって余儀なくされたその病床で、「武」はカミさんに問いかけている。《そうだ、黄金色の家ってのはいつできるんだい?》(『顔面麻痺』太田出版)。ここには「恐慌」の問題がある。
一方、その本性からして野暮な「道徳性」だけはどうしても回避しないではいられぬゆえ、「闘争」を欠き、まさにそれゆえに、どこまでも迂遠であるほかはない、かくして、「音楽愛好家」たちの愛玩物であるほかはない「カミさん=ゴダール」を、その「退行」から救い出してやるためには、「それ」を現状への「対抗」に変換すべく、その内部に「統整的理念」の働きを探り当ててやるほかに手はないのである。ところが、「フランス系みやび」の連中はそんなものには関わりを持たないばかりでなく、「それ」を嘲笑する。かくして、「人が想像出来る芸術の最も偉大な仕事」に対し「音楽」に自足するような態度しか示すことができないのだ。だいたい「毛沢東語録ならぬ赤それ自体」(『中国女』)などという解釈によって、いったい何が解明されるというのか? 「犬が走る capitalist running dog」(『新ドイツ零年』)だとかさ。ホントにアホじゃねえのか? そんなんでいったいなにがわかんだよ? 「ここにはジョン・フォードの「騎兵隊」、「捜索者」、さらには「駅馬車」の記憶があるはずだ」(『フォーエヴァー・モーツァルト』)だとさ。くだらねえ、それが「批評」かよ。「モンタージュはあるが、理念がない。ストライキはあるが、ボイコットがない」(『東風』の試写会場におけるガンジーとグラムシによる共同声明)。「それ」が現状にいかなる働きかけをなしているのであるか、あるいは「未来の他者」にいかに応答しているのであるかが解明されるべきなのであって、とどのつまり、「上質の音楽は最高に気持ちいい」ということに要約されてしまうほかはないような感想などは「ブルジョワさん」の自己満足にすぎない。
ゴダールは天才である。そのことは「拙者」のような紛う方ない貧乏人にとってさえ、まったく疑い得ないことのように思われる。たとえば、ウェーベルンの「作品」が、あるいはジョイスの「作品」が、どうあっても後世に残るだろうように、彼の「作品」も廃れるというようなことには決してならないだろう。しかるに、そんな完全無欠の「音楽作品」ばかり食らわされた日には、音楽に恍惚とするのが本性の「ブルジョワさん」は結構だろうが、オイラのような「野暮天」はやりきれない。オイラの特質は「宙に浮く」ことにあるので、そんな充実を誇るだけの「作品」の内部に収まって、ヌクヌクというわけにはいかないのだ。ことわっておくが、オイラは、その種の「場所」を必要としない。浅田彰などは、そもそもが「理念」の働きを認知できないからこそ、他に言うことを持たず、音楽の質などというものをまずもって言い立てるほか仕方ないだけのことである。しかもそれは大抵の場合、衒学趣味となって現れる。この清らかな人は、音楽会で泣いていらっしゃる。それは「ブルジョワさん」特有の「お涙頂戴」ではないのか? 音楽は「麿」の「縄張り」で「おじゃる」というのが、その主張であるらしい。「ブルジョワさん」は、自らの「エリート意識」に涙していらっしゃるわけである。それは「分類」を事とする本能である。そりゃ「武」とは性が合わん。「山の手のピアニスト」(淀川長治)、まさにあんたのことじゃねえの?

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