2008/9/14  9:06

“存在すること”の不安B  音楽

3、『The Dark Side Of The Moon』

 1973年3月、ピンク・フロイドは、『The Dark Side Of The Moon(狂気)』を発表。アルバムは、全英2位、全米1位を記録。最終的には、これ以降の15年間、連続724週にわたって全米トップ200にランクインされるという、怪物的なセールスを記録することになる。
 アルバムの基本コンセプトは、前述の「If(イフ)」における、“彼岸の世界”を普遍化して昇華させたものである。日常の世界に存在している、“彼岸の世界”。そして、誰でも自分の中に抱えている、“彼岸の世界”。ロジャー・ウォーターズは、あらゆる角度から、“彼岸の世界”を語り尽くしたのである。“彼岸の世界”は、邦題の“狂気”と置き換えてもよいだろう。
 そしてロジャーが、“彼岸の世界”の向こう側に見ていたものは、“死”である。

 すべての人間にとって、等しく受け入れなければならない現象が“死”である。“死”は、容姿、貧富、能力にかかわりなく、誰にでも訪れる。命あるものは、この世に生まれ落ちた瞬間、すでに“死”を宿命づけられているのだ。
 しかし、命あるものにとって、“死”を意識することは苦痛である。そして、“死”を意識することによって生じるものは、“自己の存在に対する不安”だ。「自分は何者であるか?」、「自分はどこからやって来たのか?」、「自分はどこへ行こうとしているのか?」、「自分の存在価値とは何か?」。多くの先達たちは同じ問いを繰り返し、“自己の存在に対する不安”から逃れるために、さまざまなことを試みた。それがいわゆる、創作活動全般である。
 自己の存在を証明するために、人は絵を描いたり、文章を書いたり、そして曲を作ったりするのだ。

 ところで、人間の老化現象のひとつに、“痴呆”がある。“痴呆”は、死の恐怖から解放されるために、自然が与えた恩恵であるといわれている。“痴呆”によって“彼岸の世界の住人”になってしまった人は、もはや自己の存在に対する不安にかられ、死の恐怖に苛まれることもなくなるのである。そう考えると“彼岸の世界の住人”になることは、真の意味で魂を自由に開放することかもしれない。
 ロジャー・ウォーターズは身近に、その実例を見た。
 若く美しいまま時間を止めてしまった、シド・バレット。ドラッグで癒されることのなかった彼の魂は、“彼岸の世界の住人”になることで永遠の安息を手に入れた。
 『The Dark Side Of The Moon(狂気)』のコンセプトは、シド・バレットに対する憧憬を、人類普遍のテーマに昇華したものである。この、きわめてレベルの高いテーマを、ロジャー・ウォーターズは簡潔な言葉でまとめ上げた。アルバムを発表してもけっして歌詞を掲載しなかった彼等は、このアルバムではじめてジャケットに歌詞を印刷した。この事実から、彼がこのアルバムの歌詞の完成度に、いかに自信を持っていたかが伺える。
 そして、その歌詞に負けない、完成度の高い音。まったく隙のないアレンジは、ほぼ完璧と言っても過言ではあるまい。まさに、ロック史に残る、究極の1枚である。
 『The Dark Side Of The Moon(狂気)』は、製作した当人たちの予測をはるかに超えるレベルで売れまくった。ピンク・フロイドはついに、シド・バレットを超えることに成功したのだ。
 ロジャー・ウォーターズがシド・バレットの幻影から解放されたことは、つづいて1975年9月に発表された『Wish You Were Here(炎)』収録の、「Shine On You Crazy Diamond(狂ったダイアモンド) 」によって明らかである。
 『The Dark Side Of The Moon(狂気)』の“動”に対して、対極の“静”を連想させる穏やかなサウンドに乗って、ロジャーはクールに歌うのであった。

 キミの狂気は固い結晶になってしまった
 ひたすら世の中を超越して輝き続けてくれ

 一段高い境地に到達したからこそ見えた、狂気のカリスマの真の姿がここにある。私は、シド・バレットに対する永遠の賛歌を発表したこの時点で、ピンク・フロイドはその活動を完了させるべきだったと思っている。しかし、彼等はその後も活動を継続させた。
 『The Dark Side Of The Moon(狂気)』の成功がもたらしたものは、シド・バレットの幻影から解放されることだけではなかったのである。
 自分達に対する、過剰なまでの自信。
 ロジャー・ウォーターズは、今度は自分のコンセプトに基づいて、ピンク・フロイドを率いて行くことを決心したのである。



2008/9/16  20:45

投稿者:matsuZAK

うぃんさん、
そのコメント、
ブログに引き取りますよ。

2008/9/16  15:06

投稿者:うぃん

9月15日にリック・ライトが65歳で死亡したとのことですが、そうすると(シド・バレットが抜けた後の)私にとってのピンク・フロイドの再現は不可能になったということになります。
確かにメンバーとしては地味な存在に見えましたが、実際にはどうだったのでしょうか?プログレッシブロックにおいてはキーボードの役割は大きいと思うのですが。

2008/9/15  17:15

投稿者:kisato

@ぴあ特集コラム
http://t.pia.jp/column/music/jeff-beck.html
[現在の最新作は、ライブ・アルバム『ライヴ・ベ
ック'06』だが、すでにニュー・アルバムを制作中
という情報も伝えられているので、日本のステー
ジでは、孤高の天才ギタリストの新たな境地で魅
せる最新のナンバーの披露も期待したいところだ
。(2008/9/12)]とあるけど、まさかこのアルバム
じゃないよね〜↓
http://eil.com/shop/moreinfo.asp?catalogid=44
6599
Jeff Beck Performing This Week... Live At Ron
nie Scott's Jazz Club UK CD ALBUM (446599)

わたしはパスです。もしニュー・アルバム出ない
んならたとえ行けてもパス。でも実情は行きたく
ても行けない:'(
まあ、一度生ベック体験したからよいのですけど
(ジェニファーさんにはすぐそばで遭遇したし・笑
)

2008/9/15  10:20

投稿者:matsuZACK

>ジェフ・ベック来日

2月6日(金)に行こうかな?っと。
どうせ、帰り道だし…。(笑)
ニューアルバムが出るなら、
なおよしってところですかね。

上京するんですか?

2008/9/14  16:42

投稿者:kisato

あっ・・、matsuZACKさんのHPからメルマガ出てたのかと勘違いしちゃいました。
そう、山健さんのメルマ読んでmatsuZACKさんの濃くてちょっと情緒的な批評文章いいなーと思ったものです。そしてGYANでのそれぞれのバンドの批評もなかなか的得てたりおもしろい角度から書かれてたりmatsuZACKさん独特の見方が書かれてたりしてね。

山健さん自体批判されたりでごちゃごちゃして掲示板閉鎖してからやり方変更してこの頃からしばらくいろんなことトライしてやっと落ち着いてきたかと思ったら突然また閉鎖ってのが続いたと思う。あの山健さんのメルマのページは好きでした。
山健さんとこのメルマガは購読してなかったと思う(たぶんメルマガ知らなかった)。HPのページで読んだのでした。

話それるけどジェフ・ベック来日決まったみたいね。来年2月。ニューアルバムをその前に出さなかったらあまりにもつまらないのでは?と思ったけど出すらしいと噂立ってる。

2008/9/14  15:19

投稿者:matsuZACK

あれっ、そうでした?

『文学メルマ』は、
作家の山川健一氏が主催していたメルマガで

私はその執筆陣の一人でした。

音楽評論以外やらなかったから、
愛想を尽かされた…みたいっす。(笑)

2008/9/14  10:33

投稿者:kisato

>シド・バレットに対する永遠の賛歌を発表し
たこの時点で、ピンク・フロイドはその活動を
完了させるべきだったと思っている。

わたしもそう思います。
ピンク・フロイドの名作、名盤への熱い思いが
読んでいる私の共感をまた呼び覚まします。

ところでこちらの何回かに分けられた記事。
『web-magazine GYAN GYAN』未掲載の作品だっ
たのですね。

>メルマガ『文学メルマ』のために書き下ろし
た作品で、
同誌2002年6月25日号から7月17日号に掲載され
ました。

うわっ、メルマガやってたの?!! 知らなかった
Yooo (*´ー`*)  ってわたしこの頃のす
ぐ後あたりに訪問したんだったかな(?)・・。

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