2008/7/21 13:00
第3章 ベンの最初の鯨 (3-1) 海の狩人
われわれはそのとき貿易風にのり南緯13度あたりにいた。これは確かだと思うがそこにリッシュ・チップマンがいた、彼はマストの見張手で、鯨がいると叫んだ。われわれはたちまちのうちに4隻の端艇を海に下ろした。
デイビス船長はこの6ヶ月間というもの、鯨に対して飢えていて、けんか腰でもあった。ところが鯨は尾羽をひるがえし沈んでいったので、自分はふたたび浮上しないだろうと思った。船長は艇の舷側に座り、リッシュは見張り台にいて、我々はそれぞれの漕ぐ櫂の先を見つめていた。最初の鯨のひと噴きをとらまえようとしていると、リッシュが恐ろしいほどの力で叫び声をあげた。
「ビル」とベンがいった。俺に呼びかけてくれ、お前は端艇の中にいると、そしておまえがいつの日かささやきを耳にし、それを聞いたのちは成長しないと。「どうであれいいさ、俺は話していたよ、リシャ、静かな声で、ささやきよりほんのわずか大きいだけだ。砕け波に注意しろ、櫂をもて、そう全員だ、そして人生なんかについて話をするな」と船長はいった。船長は鉄製の銛をにぎっていた。好天の突風のように鯨の頭部が現れた、われらが端艇からすぐのところだ。距離にして銛の長さの二つ分くらいのところである。
我々は手も足も動かすことが出来ないでいた。ゆっくりと鯨は進行し、あたかも彼の体長がどこまでも続くように見えた。老練水夫たちを見るとガレー船のようだと自分は思った。我々のだれしもが息もつかず、瞬きもせず、恐ろしい巨体が空に向って飛び出すのを見た。いいかいお前たちよ、鯨を実際に見るまでは太陽を覆い隠してしまうほどの、それがいかに大きな生物かは理解できぬだろう。
