2008/7/4  23:21

ナイルのうなぎ  分類なし



家族でエジプトを旅行した。
 エジプト国内を回り、最後にカイロに戻ってきて、「じゃ、日本食でも食べるか」と、ホテルの近くの「日本レストラン」となっている店に入った。
 我が家は我々夫婦と息子たち三人の総勢五人。テーブルに着いて、注文を始めた。ここまで書いて、愕然としたのだが、長男がうな丼を注文したこと以外、私たち夫婦や他の子供たちが何を注文したのか、まったく覚えていないのだ。
 全員が異なったものを頼んだのだろう。ただし、一番下の三男は、まだ赤ちゃんだったに違いない。だから彼はミルクだ。
 全注文がテーブルに揃った。
 「いただきまーす」と、みんなが一斉に食べ始めた。その時だった。
 「ぎゃー」と叫んだのが長男だった。
 「ど、どうした」
 「これ、食べられないよ」と長男が顔をくしゃくしゃにしている。
 「どうした、うなぎだよ。お前は何でも食べるじゃないか」と私。
 我が家のモットーは、何でも食べること。そんな長男がうな丼の箸を置いた。
 「もったいないなあ、じゃ、私のと交換するか」と、私の注文を長男に渡して、そのうな丼をもらった。すごく太い量感たっぷりのうなぎだった。箸でつかんで、一噛みしてみた。
 「ああっ」うなぎの身の中は小骨だらけだったのだ。
 それを噛んでしまったら、もうこれは鉄条網を丸めて喉に通すようなもので、とても食べられない。「な、なんだこりゃ」と、私も無数の小骨付き団子状態のうなぎを皿にもどした。
 エジプト人の店員を呼んで尋ねたら、ナイル川のうなぎだという。
 「ナイルであれ、アマゾンであれ、うなぎは小骨を取るか、小骨を避けて身を開いて焼くのだろう。これはとても食べられないよ」と突っ返した。その交換品を食べたかどうかも覚えていない。
 ただ、それ以降、長男はうなぎ(だけ)が見事に大嫌いになってしまった。
 (まあ、贅沢なものだから、費用が浮く)なんてほくそ笑んでいたら、その後、日本に帰国した後も、「僕はうなぎだけ嫌いなんだ」と、どこでも広言するようになった。家でも絶対に食べなかった。両親のしつけが問題となる。すでに中学一年生だった。
 「これはちょっとマズイ。何とかしないと…」
 ある日、群馬県の前橋に出張した。同僚と、「美味しい、うなぎ屋があるので行こうか」と昼食に、前橋の「静」という店に入った。古い、木造の家の二階は冷房もなく、暑いところに下からうなぎの焼く香りがして、食べるまでに無料の香りでお腹が大合唱。
 出てきた蒲焼の絶妙なこと!「旨い。実に旨い」と感慨にふけると、ナイルのうなぎが発端となった、長男のうなぎ嫌いを思い出した。
 「こ、これだ」と、私は店員にうなぎを何人前か頼んで、包んでもらい、家で夕食に食べる際の正しい温め方も教えてもらった。包みをぶら下げて、家に帰って、長男にそろりと話しかけた。
 「どうだ。ほっぺが落ちるほど美味しいうなぎを見つけた。食べるか」
 予想に反して、「うん」という。
 お皿に横たわった「静」のうなぎの身をほんの少し切って、長男はそろりと口に持っていった。家族全員が注視。
 「おいしーい」と長男が言ったので、家族全員でぱちぱちぱち。それ以来、貴重な長男の好き嫌いが無くなった。



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