2008/7/10 23:33
朝食の音楽会 音楽
ヨメサンと横浜からハワイまでのQE2(クィーンエリザベス2世号)の船旅に出かけた。ヨメサンは、最初の日から、あちこち行事で走り回り、私はCD音楽を聴きながら、エッセイを書く。
最初の夜はリラックスと酒で、ぐっすりと眠り、早く目覚めた。ヨメサンは、
「船に乗っている間くらい、ゆっくりと…」で起きてこない。最後部のラウンジには、コーヒーと軽食が用意してあるはず。部屋を出たが、長い廊下にも人影はなかった。
QE2の広い最後部には、数人のお客が軽食を摂っていた。私もコーヒーを片手に、サンドイッチを取り、テーブルでノートを広げ、日記を書き始めた。
気がつくと、楽器の音が端から聞こえた。音の調整だ。見ると、アメリカ人がバイオリン、ビオラ、チェロの三重奏の準備をしている。
譜面を一つ立て演奏が始まった。知らない曲だ。私はコーヒーを持って、近くのテーブルに移った。早朝の人気の少ない豪華客船のラウンジ、あまり美味しくないコーヒー、サンドイッチのハムは上等。外の白い波頭。そして音楽。こんな旅情が船旅だ。その演奏が実に素晴らしかった。終わるたびに拍手し、トリオも私に微笑みを返していた。演奏を終了し、立ち去る前に、一人の演奏者が「私たちの演奏がお好きなら、今日は…」と、演奏の場所と予定を教えてくれた。
午前中には中央階段の踊り場、午後のお茶の時間はバーの横。夕食はレストランでの演奏と一日に四回ほど船内で演奏している。私はノートと本を持って、階段に座って、聴いていた。ポピュラーなクラシックの名曲を演奏している。CDとは迫力が違う。
(こりゃ、最高だ)。聴いていたのは、私だけだった。通り過ぎる乗客たちは立ち止まっても、すぐにどこかに行ってしまう。ヨメサンは船内を走り回っていた。私は「こんな贅沢はない」と腰を据えた。
午後のお茶の時間も、夜のレストランでも、私は演奏を聴いた。二日目の早朝軽食にも、三重奏の練習を聴いた。昼前の階段の踊り場では、私の専用の椅子が置いてあった。
彼らは、最近引退したニューヨークフィルの演奏者だった。どうりで上手なはずだ。一日に何回か船内で演奏して、世界一周をしている。毎日、トリオで練習をする。本来なら、高い切符を買って聴くプロだ。
船旅の宝物だ。私はできる限り演奏を聴いた。どこでも私の席が用意してあった。船の乗客たちは、音楽は付属品と思うのか、じっくりと聴こうとしない。もったいない。
三日目、フォーマルの夕食のとき、何曲かの演奏の後、たくさん並んでいるテーブルの間を通り、バイオリン奏者がひとり、私の席に来て、
「奥様に何か曲をプレゼントされますか」と屈んで尋ねてくれた。豪華な配慮だ。「じゃ、ラプソディ・イン・ブルーを」なんて、ワインで酔って、注文する。同じテーブルのアメリカ人たちが、
「すごい。あなたの知り合いか、あなたは有名人か」というから、
「はあ、まあ、まあ」と答えておいた。私たち夫婦のリクエストだと、告げての演奏が始まった。
ハワイに到着する日の早朝、ブリッジのゲーム室で、三人が私たち夫婦のための送別演奏会を開いてくれた。
「私たちの最高のお客様のために、どんな曲でも演奏します。どうぞ」
「ベートーベンと、チャイコフスキーのX協奏曲を」
最高の思い出となった。


