2008/8/5  22:19

サウジの伝統料理 「カプサ」調理編  グルメ・クッキング



最高級ナジディ羊を丸一頭生きたまま市場で買って、カプサ専門料理屋に連れて行ったときの、羊の目は思い出したくない。自分の運命は知っているのだ。
 私のために、すまぬのう―と、思う。
 友人は羊の首紐を引いて、店の裏に連れて行った。店員が出てきて、羊はストンと倒れた。瞬間的に持っていたナイフで、首を切られた。
 アラビアでは生きている羊やニワトリを屠殺する場合、必ず「アラーの神のもとに」と、一言祈る。祈らないと屠殺してはならない。
 斃れた羊からは、溝にどんどん血液が流れていく。私は仏教徒だから、思わず「南無阿弥陀仏」と拝んでしまった。
 イスラム教徒は血を食べない。血は捨る。血をゼロにして肉料理ができるわけではないが、要は血液の見える料理は無いということだ。
 すぐに羊は、天井からの鎖で逆さに吊り上げられ、更に血が抜かれて、店員がさっさと皮を剥ぎ始めた。その手際の良いこと、早いこと。羊さんはすぐに丸剥けになった。水を掛けて洗って、腹を切り裂き、内臓をドドンと落とす。
 これだけの作業がほんの数分だった。さらに水洗い。そして、もう煮込みの用意となった。
 直径一b、深さ八〇abほどの巨大な鍋が、巨大なガスコンロの上に置かれていて、水がたっぷりと入れてあった。そこに吊るした羊の肉を移動させて、鍋に入れる。頭も、胃も、肝臓も一緒に放り込まれた。
 塩、ドライレモン、カルダモン、その他(ここから後は、ヨメサンに尋ねる以外に方法はない。忘れてしまった)。どんどん、煮込み始めた。
 ここまでは、ずっと付き合ったが、それ以降は、数時間手持ちぶたさになる。
 私は一端、家に戻った。まだ朝の一〇時になっていなかった。少なくとも四時間は煮る。
 午後二時、私は一人でその店に戻った。
 「全工程を見たいから、私の戻ってくるのを待って欲しい」と頼んでいたから、煮込みは終わっていたが、火は弱くしてあった。クレーンを使って、羊肉を吊り上げて、横の巨大な皿に置きなおした。
 その煮汁を使って、煮込みご飯を炊く。これが強烈だった。お米を五〇`cの袋から、スコップで一五`cほど取り出して、巨大な皿に小山を作り、三人掛かりで運んで、鍋の横に置き、セメントを投げ入れるようにして、鍋に米を入れ始めた。
 もちろんご飯は研いだりしない。時々小石が入っているのもご愛嬌。ご飯には、サフランで色付けしたり、塩や乾しブドウを大量に入れて炊く。
 私は鍋の見えるところで、本を読んでいた。すぐにご飯はグツグツと煮え始めた。数時間、煮込みが続いて、次第に炊けてきていることが分かった。
 いつの間にか、四時を回っていた。友人が戻ってきて、火は落とされた。
 煮込みが終わったとき、鍋の横に大きな直径一・五bほどの金属製の皿が置かれた。大きな工事用スコップを持った店員が、炊きあがっているご飯を皿の上に移しだした。
 ご飯の山ができ、スコップで三笠の山型に整えている。その頂上を平たくして、横に置いていた羊の肉をドカンと置いて、それで完成だ。
 これはもう大人三人で持たないと、とても運べる重さではない。トヨタのピックアップの荷台に載せて、アルミ箔で土埃が掛からないようにした。
 後は、砂漠へ出かけて、食事をすることになる。
つづく



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