2008/8/28  15:53

Arbeit 2  分類なし

つづき


 これに関しては、最高裁の判例を敷衍しつつ、著者はこう述べる。

 就業規則の変更が、賃金、退職金といった労働者にとって重要な権利に関わる事項に関係する場合、「高度の必要性に基づく合理性」が必要だ。労働者本人が被る「不利益の程度や内容の勘案」に焦点を合わせ、そこまでせざるを得なかったのか否か、が討議されなければならない。

 この原則に即して考えると、就業規則の変更による月9万円の減額という島崎さんの例が「仕方ない」と認められるためには、会社倒産の危機といった「高度の必要性」を伴わなければならない、ということである。

 実は今年3月から施行されている労働契約法にも、〈使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない(後略)〉(第9条)という条項が盛り込まれた。労働者にとって心強いことだ。

 本書には労働基準法や労働組合法と並び、今後の労働現場における基礎法令となる、この労働契約法が度々登場する。条文の解説というより、前記のような具体的事例に即してその意義が説かれるため、理解しやすい。

 この労働契約法制定のもうひとつの意義が安全配慮義務の明文化だ、と著者はいう。具体的には、労働契約法第5条〈労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする〉を指す。

 著者は、この「生命、身体等の安全を確保」の「等」には労働者の「人格権」が含まれると解釈している。例えば使用者が、いじめやパワハラが起こっている環境を知りながらそれを放置している場合、人格権の侵害を見て見ぬふりをしていることと同義だから、責任を追及できるというわけである。

 本書で紹介される、あるデザイン会社でのいじめ、パワハラはすさまじい。いや、それ以前に、連日にわたる徹夜、長時間労働が常態化し、会社は社員一人ひとりに職場で寝泊りするための寝袋を支給していた。残業代はもちろんゼロである。しかも、社員は会社が指定した住居に相部屋で住まわされ、おまけに賭け麻雀にも強制的に参加させられていた。
パワハラには労働契約法が盾になる

 こんな職場だから、上司による部下への暴力も日常茶飯事。そんななか事件が起きた。長時間労働による疲労でうたた寝していた社員に対し、上司の一人が「なに寝てるんだよ!」という怒声とともにいきなり殴りかかった。その男性はあごに穴が開くほどの重症を負ったが、謝罪もまったくなく、「病院にも警察にも行くなよ」と念を押されたという。

 著者はこの事件に民事と刑事の双方で対処し、暴力をふるった上司から、巨額の謝罪・賠償金を支払ってもらうことで和解が成立した。これだけひどい暴力は刑事事件で立件すべきだろうが、著者の論に従えば、もっと軽微なパワハラの場合、労働契約法が労働者の楯となる可能性が高い。

 著者は、たとえ一人ででも、そして、どんな雇用形態でも加入できる首都圏青年ユニオンという労働組合の顧問を務めており、本書後半は、労働組合の果たす役割と可能性を訴えた内容になっている。

 労働組合に関する誤解でも最も大きいのは、正社員のみが対象で、アルバイトやパート、派遣といった非正規社員は組合に入れないということだろう。

 牛丼屋チェーン「すき家」が「店舗をリニューアルするから」という理由で、ある店で働いていたアルバイトを全員解雇した事件があった。リニューアル期間はたったの1週間。勤続年数に比例して時給が高くなったアルバイトを、この際だからお払い箱にしよう、という経営側の勝手な判断、という疑いが濃厚だった。

 そこで著者が行った助言は、解雇されたアルバイトらを労働組合に加入させよ、というものだった。解雇の違法性を巡って裁判を起こした場合、たとえ勝てたとしても、企業側に請求できるのは賠償金の支払いまで。「復職させろ」とは言えないからだ。

 早速、解雇されたアルバイト6名が首都圏青年ユニオンに参加。解雇の撤回と復職を目指して団体交渉に臨んだところ、ついに会社側が折れ、復職にこぎつけたというのだ。

 本書を読みながら思ったことがある。自分が企業に雇用され、働くということが法的にどんな意味があるのか、何をすると罰せられて、逆にどんな権利が自分にあるのか、わかっていない社会人が多すぎるのではないか。もちろんこれは、自戒を込めて、の言葉である。

 例えば、いずれも本書で意を尽くして説明されているが、

「会社に入るということは労働契約を交わすことである」
「出退勤の自由があり、部下の人事に関与でき、経営の重要事項の決定に関与し、地位にふさわしい十分な手当てを支給されていなければ管理職とはいえず、残業代を請求できる」
「企業は勝手に従業員を整理解雇することはできず、満たすべき条件がある」

 といったことを頭に入れて社会に出る若者がどれだけいるか。

 一般市民のリーガルセンス、それも労働法の基礎知識を社会に出る前にしっかり教える必要がある。「人件費抑制を目的とした大企業の政策と、それを後押ししてきた政府の無策に、現代の労働者が困窮にあえぐ根本原因がある」といった、いささか図式的な見解は適当に読み流すにしても、最初に法律ありき、ではなく、あくまで現場の事例から議論を積み上げていく本書の価値は揺らぐものではない。

(文/荻野進介、企画・編集/須藤輝&連結社)



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