2008/3/31  15:24

いい気候になってきた。列車で遠くに行こう  RECOMMENDATION

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わたしは「鉄ちゃん」ではないのだけれど、一人旅なら列車に限ると思う。
長距離バスはどうも落ち着かないし、女一人だと、隣の人が気になるし、どうもあの休憩する「ドライブインサービスエリア?)」というのが好きじゃない。料理はまずいし、トイレはあまり清潔じゃないし、土産物も、画一的で苦痛なのだ。

列車の旅行は実行に移すまでも楽しい。時刻表を見て印を付けたりするのはゲームのようだ。うまいことアレンジできると、なんだかパズルがとけたような満足感がある。
国内旅行で楽しかったのは、ある夏、山口県ローカル線に乗ったことである。
行く先々に銀行が山口銀行しかないのには、わたしのような都会のねずみはびっくりしたし、宿がやたらと広くて、一人で泊るのはなんだかひどくこわかったけれど、列車の旅は今思い返してもすがすがしい思いにかられる。
なにせ20年も前のことなので、路線の名前は忘れてしまったが、目的地に行くために、一時間に何本もない列車に乗ることになった。地元の中高生とともに丈の短い列車に乗り込むと、急に雨が降ってきた。通り雨だ。水田がモノクロームに染まっていく。すてきだ。人家はほとんどなく、畑や原生林の中を走っていく。そして、急に雨が止んだと思ったら、竹林の中を突っ切る。竹は水に濡れて、いよいよ青い。なんという美しさだろう。山形に行く新幹線でも同じような感覚を持った。車中で本でも読もうと思ったのだが、めくるめく景色の美しさに、みとれてしまって、結局本は荷物になっただけであった。

そういえば、その山形は、亡くなった父の兄、つまり伯父の三回忌で行ったのだが、生前父にきいたところ、先祖は平家だかなんだかの落ち武者の群れだったらしく、菩提寺はとんでもなく立派だ。博物館とみまごう位牌だけの大きな部屋があって、圧巻だ。めずらしかったので、ひとつひとつ見てしまった。普通の位牌もあれば、厨子のような立派なものもある。なにより、全部同じ名前(しかも父の旧姓)だというのもすごい。500年前まで過去帳がさかのぼれるといっていた。しかし、親戚の人たちの言葉が、まるでわからないのには驚いた。とても耳障りのいい言葉なのだが、さっぱりわからないのだ。まったく日本は広いと思った。地方の豊かさは、その景色と食事のおいしさにある。心をこめた手作りの料理はどれもこれもめずらしいもので、またもや都会のネズミは目を丸くしたのであった。山形の食べ物というのは、あまり知られていないと思うがさくらんぼや洋ナシだけじゃないのだ。ドラマ「おしん」の影響で、ただただ貧しい側面(それも現実だったが)が強調されているが、実際、山形の人々の食卓というのは、自然食の尖端を行っているというか、素材のおいしさをとことん引き出した豊かなものである。漬け物などは果実と一緒につけこんであったり、鮎に、ちまきやゆべし、山菜料理の多彩さたるや驚きの連続だ。ほんとうに素晴らしくおいしいのだが、気候が変わったりするとたちまち味が変わってしまうし、どの料理も日持ちがしないので、きっと全国的には流通しないのだろう。父が生きていた頃は、宅配便で、漬け物など送ってくれたものだが、わたし一人になってしまった今となっては、食べきれないので、遠慮している。そのうちまた訪ねていってごちそうになろう。

フランスへ一人旅をするときは、トーマスクック片手に列車に乗りまくる。友人がつかまれば、車で案内してもらうのだが、みかえりに料理だのおさんどんを期待されるので、最近はひっそりフランスに行って、電話するくらいにしている。だいたい、こっちは休みに行ってるのに料理だの友人呼んでお好み焼きパーティーだのなんて不毛すぎる。(フランス人は日本のB級グルメを期待するのだ。そういう店はあまりないからである)

ペルピニアンから列車でエルヌに行った時はとても良かった。
雲一つない晴れた日。観光客なんて一人もいない。ここにあるロマネスクの教会が目当てなのだが、小さな町自体がとてもすてきだ。白い外壁の戸建てが多く、庭にはミモザが咲き乱れている。どの家もとてもすてきな造りだ。ろくなレストランもカフェもないけれど、このエルヌロマネスクの教会は素晴らしい。回廊に掘られたグロリス(グロテスクな怪物)の数々、ローマ人がここまで来た証である。物音ひとつしない静寂は何よりもぜいたくである。
タルゴ」の壮快さは、前回のコラムで書いたのだけれど、フランスの列車はなかなかすてきだ。

アルビという町へもガタゴトと行ったことがある。ロートレックの住んだ家が美術館になっており、町にはなかなかすてきなレストランもある。実は、フランスの友人と車でカタリ派という法王庁に「異端」よばわりされ、最後はピレネーの近くで皆殺しにされた、キリスト教の一派が、逃亡のたびに、城を造っていて、その足跡を車でたどっていったことがあった。あとでわかったのだが、フランスの観光局は、このカタリ派の城塞をめぐるツアーをスタンプラリーにしていて(今もやっているかは不明)、全部回ると、ラングドック・ルシオンのワインがもらえるという、迫害され虐殺されたカタリ派の人々が聞いたら激怒しそうなプランがあったのだが、その商魂には笑ってしまった。
そのカタリ派は、一時アルビに拠点を構えていたので、カトリック勢力はそれを殲滅して、壮麗な大聖堂を作った。あんまりといえばあんまりなほど、豪華な造りのその教会は、権威を誇示するために作ったというのが、あからさまにわかって、なかなか見応えがある。

フランスのローカル線もなかなかだけれど、やっぱり目的地に行く途中はどうしてもTGV(新幹線)には乗らねばならぬ。モンペリエ方面のTGVは途中に原発があって、ずっと前は不気味なほど真っ白な建物がそびえているのが見えたのだが、さすがにフランス人も不気味だと思ったらしく、その後再度乗ったときに見たら、絵が描いてあった。どちらにしても不気味な迫力だが。
そういえば、フランスでも、お弁当を列車に持ち込む人は多い。だいたい、バゲットにチーズを挟むだけなのだが、このチーズが非常に臭かった場合、車中は、騒然となる。みんな無言なのだが、空気が総毛立っている。まあ新幹線でくさやの干物をどうにかしてると思ってくだされば正解である。



たまには高級宿に泊まって命の洗濯



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