2008/4/21  9:00

動物病院の待合室  RECOMMENDATION

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猫の検診にペットクリニックに行った。
ドアをあけてびっくり。元気なわんこがわらわらいる。
どうして〜? 春は狂犬病予防接種の季節なのだ。
でっかいのからちびっこまで、さながら犬の品評会である。
うちの猫は、恐怖からケージの中で固まってしまった。

わたしは、猫を亡くしているので、今飼っている猫に少しでも変なことがあると連れて行くことにしている。近いということもあるのだけれど、かなり気軽に連れて行く。何しろ、動物はもの言わぬもの。変なサインを見つけたら、すぐに専門家に見せるのがよいのではと思う。
しかし、いつ行ってもペットクリニックの待合室は面白い。

とにかく、付き添いが多い。まず、一匹に二人というのがスタンダード。
人さまの場合、お年寄りとか子供が病気だとしても、付き添いというのは、まあ、重篤なときを除いてせいぜい一人くらいだろう。大人なら普通は医者には一人で行くものだ。これが、ペットだと違う。家族ぐるみで付き添ってくるのもざらである。だから、狂犬病予防注射の今の季節、本当の病気のいわゆる患畜と、健康な予防注射目的の犬であふれかえっている上に、付き添いの人間がぞろぞろいるので、立錐の余地もない混雑ぶりである。いつものことだが、飼い主は、深刻な患畜の持ち主を除いてたいてい目が笑っている。
そして、人のペットをほめる。
「あらきれいねえ」「おりこうねえ」
しかし、本心は自分のペットが一番かわいいのである。

わたしの、一年ほど前にあの世に行ってしまった猫は、クリニックに連れてくると待合室で私にしがみつき、ぶるぶる震えていたものだった。オスのくせに気の弱いことである。
ある日、いつものようにケンカに負けて傷だらけになったので連れて行くと、でっかい注射を打たれた上、お腹にできた膿を切開して取り除いたりと、さんざんな目に遭った。猫は、クリニックから帰るとき、キレた。びゅっと向かいの大きな屋敷の三メートルはあるかという塀を引力に逆らって直角登りして、お屋敷に入った。脱走だ。私はしばらくぼーっとたたずんでいた。「うそでしょ……」
そして、そのお屋敷にそびえ立つ古い門の呼び鈴をおそるおそる鳴らして中に入れてもらい、捜索したが、あまりにも広くて、どうにもならなかった。そこの女主人は「クリニックの動物はねえ、よく来るのよ。おむかいさんだから。大丈夫、そのうちおうちに戻るから」と慰めてくれた。このお屋敷は、ペットクリニックで「ひどい目に遭った」動物たちの駆け込み寺になっているのであった。
その頃はまだ父が存命だった。わたしは、公私に疲れ、あまり精神的にいい状態ではなく、普段でも感受性が必要以上に高く、気弱になっていたので、このびっくり事件に「帰ってこなかったらどうしよう」とわんわん泣いてしまった。そうしたら、父は「りこうだから帰ってくるよ」とぽつり。が、実は、内心気が気じゃなかったようだ。というのは、ついに、猫が戻ってきたとき「40分」と一言。なんと、時間を計っていたのだった。父も、心配だったのだ。わたしは、猫をぎゅーぎゅー抱きしめた。このやろう心配させやがって。
夕方、とぼとぼとお屋敷に菓子折を持って行った。女主人は「良かったわね」と微笑んだ。胸がきゅんとした。

ところで、ひどい目と言っても、そこのクリニックの先生は、ソフトでやさしいお気楽キャラである。でも先の猫が急死したときは、休みの日なのに最善をつくしてくれ、臨終を告げると、号泣するをわたしと一緒に悲しみ、慰めてくれた。「ぼくも救えなくて悲しい」と。そして、今年、新しい猫を連れて行ったときは、とても喜んでくれた。そして、死んだ猫の思い出話もあれこれした。沢山のペットを看ているのに、うちの子を覚えていてくれたんだ、と涙が出た。

しかし、さすがの先生も、へろへろである。助手も同様。先生は、今月何回か自治体の保健所予防注射接種にかりだされ、クリニックでは、次から次へとくる、元気なわんこに予防接種をひたすら打ち続けるのであった。いつもは、そう待たないのだが、今回は、すっかり待たされてしまった。なにも一斉にやらなくとも良いと思うのだが、それほど狂犬病というのは、恐ろしい病気なのである。だから、猫の予防注射のように、一年に一度クリニックから個々にお知らせはがきが来たらいけばいいというものではない。

待合室で話していると、驚くのは、ほとんどの飼い主が、捨てられそう、あるいは捨てられていた犬や猫を引き取っている事実である。わたしの前の猫も、家の庭に生後一カ月で捨てられていたし、今度の猫も、引っ越すからというので、全く知らない人から人づてに渡ってきた。そういうことを見過ごせない人たちばかり、動物が大好きな人たちなのだ。だから、他の人のペットにも気軽に声をかける。「お顔をみせて。まあかわいい」みんな、好奇心一杯。いつも待合室はなごやかだ。それぞれ、何度かペットとの永遠の別れを経験しているので、ペットロスのことや病気について、日常の異常ついての色々な情報交換の場になる。たとえば「あそこの(ペットの)美容室はいいわよ」とか。当の動物たちは、これから何をされるのか気が気じゃないのだが。

やっと、うちの番になると、普段は女王様然としていばっているくせに、萎縮している。ケージにしがみついてはなれない。実は、ぴんしゃんしたわんこたちが、かわるがわるうちの女王さまの顔を見にケージに張り付いてきたのだった。好奇心があるのは動物もご同様。そんなわけで、いつも尊大で、ときに診察室で大暴れする女王様はしおったれて、先生に「きょうは、ずいぶんおしとやかじゃん」とからかわれる始末。そんなことをしている間にも、さらにわんこはぞろぞろ待合室に現われているのだった。

先生の戦いはまだまだ続く。


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