2008/5/5  23:02

刑務所  米国社会

最近は米国経済の減速が衆目を集める対象となっているが、それと対応するように、連邦政府財政のみならず州政府財政も悪化している。

財政が悪化した州において、今、刑務所のあり方が問題となっているようだ。
端的に言えば、収容者の数が刑務所のキャパシティーを超過してしまい(収容率100%超)、新たな刑務所を新設する必要があるのだが、一方で財源が手当てできないために、早期に釈放することが検討されている。
既に幾つかの州では、公に宣言されているらしい。
「刑務所を増設する」というよりも「大学を増設する」と言う方が選挙民に受け入れ易いという事情もあるようだ。

これは非常に難しい問題だ。
財政的制約による理由から、収容者をどんどん外に出したとする。
中にはきちんと更生する者もいるだろうが、統計を見るとそう楽観視することはできない。
このように景気が悪化している中では、彼らが職を見つけることは益々困難になっているであろうから、再犯の確率は上がるだろう。犯罪率が上がれば、その分、企業の誘致はおろか、ビジネスチャンスは減少し、景気にも明らかにマイナスの影響が生じる。
加えて、再犯者が満員の刑務所へ戻って行けば、論理的には別の収容者を外に出す必要が生じるため、刑務所における収容期間は益々短くなっていくものと予想され、それが中長期的には犯罪へのインセンティブを高めることも考えられる。

そして、街は一層すたれ、犯罪の巣窟になるまでデフレスパイラルが続くかもしれない。

犯罪には予防と更生の両面が存在すると思う。
両者は複雑に絡み合っているので明確に分けて考えることは難しいが、教育水準と犯罪発生率は負の関係にあるだろうから、財政状況が逼迫している中で、刑務所ではなく教育施設に資金を投入すべきだという議論もある意味合理的だ。

無い袖は振れない、と諦め、2者択一の中で、エイヤッで物事を決めることも一つの手だが、他に解決策はないのだろうか。
俄かには僕の頭には妙案が浮かんでこない。


因みに我が国の刑務所の現状や予算は米国と比べてどのようになっているか。
世論調査によると、日本の治安を悪化していると考えている国民が多いようだ。そして、かつて日本の誇りの代名詞と位置付けられた治安もそのステータスは相当低下しているようだ。

まず、現状を概観してみる。
年間被収容者もここ数年で激増しており、刑務所の収容率も100%を超えている。
一方で、日本の財政状況は改善状況にあるとは言え、依然として先進国でも最悪の水準にあり、行政改革の一環として、歳出削減・公務員削減が断行されている。
このような厳しい状況の中で、日本政府としては、メリハリを付けた人的基盤や施設の整備に加え、民間活力を導入し、刑務所業務の民間委託やPFI手法の活用によりコスト削減を図って何とか対応している。

次に公表資料を基に刑務所を比較してみる。
日本を1とすると米国の値は、

・ 単位人口当たり犯罪発生件数 約2
・ 受刑者数 約20 (単位人口当たり受刑者数 約9)
・ (未決者も含めた)広義の受刑者数 約28
・ 刑務所職員数 約28 (職員1人あたり受刑者数 約0.6)
・ 予算額 約20 (被収容者1人あたり 約1.3)

このように日米間では大きな差異がある。
米国では日本に比し、明らかに多くの受刑者らが塀の中で生きていることになるので、収容期間を多少短くしても、さほど不合理ではないのではないか、と考えられなくもないが、僕は米国の刑事行政についての知見に乏しいのでここで明確に判断することはできない。

ただ、どうしても違和感を覚えることは、日本であれば、いかに財政的な制約があったとしても、刑事学的な視点から必要であると判断された政策は尊重されるであろうが、ここアメリカでは、州政府が公の場で「財政が逼迫しているので受刑者を早目に釈放します」とコメントできてしまうこと。

苦渋の決断ではあるとは思うが、このように言い放ってしまうと、他に選択肢があるのではないかと思わずうたぐってしまう。

最後に、誤解を招かないために。
ともするとこのような話をしていると治安の強化が前面に出て、あたかも犯罪者は塀の中に閉じ込めておけばよいといった極論が生じがちであるが、当然のことながら「更生」の視点を忘れることはできない。最も理想的なのは、できるだけ刑務所の運営やカリキュラムを可能な限り合理化し、受刑者に反省と再起の念を促すことによって、塀の中で過ごす期間をできる限り短縮し、社会にきちんと復帰させることであると思う。

(読者の皆さんの中に、日頃色々考えられている方がいらっしゃれば、何かの機会に教えていただけると幸いです。)



2008/5/11  5:55

投稿者:Hawk

>RB40さん
私は内部事情をよく存じ上げません。
少し話しは異なるかもしれませんが、捜査機関の無駄という意味では、このアメリカにおいても官僚的縄張り争いがあるようですね。
10日付けのワシントン・ポストの1面に掲載されている、FBIとATF(Alcohol,Tobacco, Firearms,and Explosives)のturf warは、ありがちな話でありますが、RB40さんからのコメントを拝見した後でしたので興味深く読みました。

Hawk

2008/5/9  21:41

投稿者:dankkochiku

当方のブログをお読み頂き、また、貴重な資料をご紹介頂き、有難うございました。民営刑務所と連邦刑務所の処遇評価を受刑者の反則から見るというのはいかにもプラグマティックなアメリカらしいですね。 以前、見た米法務省の冊子、Measuring Prison Results
では、保安警備面、人道的処遇面、釈放後の更生面から評価していました。

2008/5/8  10:51

投稿者:Hawk

>dankkochikuさん

コメントありがとうございます。
私は専門家ではないので、米国刑務所の実態をそれほど把握しておりません。
(お詳しい方がいらっしゃれば教えてください。)
参考までに、Federal Bureau of PrisonsのHPを見ると様々な情報が掲載されております。
例えば、下記の論文は、多少統計学的視点に偏っている感もありますが、(モデルケースとされる)PFI刑務所と同時期に供用開始となった普通の刑務所を比較し、全体としてみると、前者は後者ほどパフォーマンスが良くないようです(但し、violent misconductやsecurity-related misconductについては遜色ないパフォーマンス)。
http://www.bop.gov/news/research_projects/published_reports/pub_vs_priv/camp_daggett.pdf

答えになっておらず申し訳ありませんが、dankkochikuさんのブログを拝見させていただきました。「少年たち3」(上川隆也主演)を思い出しました。

ご自身の経験に基づいた考察や思いが詰まっていて大変勉強になりました。下記の思い、素晴らしいと思います。

 「自分の職業に意義を見つけて満足し、同じ仲間と協調、団結し、その集団への帰属意識をもち、きつい職場へ毎日通う士気の高い職員が多いのもこの職場の魅力であり、強みでもあります。 日本最初のPFI刑務所の出現が、旧来の行刑界に新しい風を吹き込み、将来に希望を抱く刑務官が多く現れることを期待します。」

Hawk

2008/5/7  12:40

投稿者:RB40

ざっと統計を見ただけでも分かるとおり、単位人口あたりの犯罪発生件数ではそれほど違わないのに、受刑者の数は圧倒的に違うということは、日本では、犯罪を犯しても刑務所には入れず、社会内で更生させる方法(警察・検察の段階で起訴猶予にするか、起訴しても執行猶予をつけるということ)を選択しているということです。つまり、もともと刑務所に入れる人数をかなり絞っているので、予算がないから早期に釈放するというのはおかしいような気がします。他方、アメリカでは、なんでもかんでも刑務所に入れてしまうというか、犯した罪に対して自動的に罰を与えるという仕組みになっているようです(と、日米比較法の教授が言っていました。)。
もちろん、本当に必要な政策であれば財政的に厳しくても実行すべきなんです。問題は、刑事政策だからといって、費用対効果の視点を忘れてはいけないということです。私の経験に照らすと、警察や検察の捜査には無駄がありすぎます。とにかく書面作成に労力を費やしすぎです。これは、おそらくどこかの裁判官が要求したからだと思いますが、個別の事件の内容を考えず、一律に所定の捜査を行い、書面を作成するのでは、いくら人がいても足りないと思います。やはり、警察、検察、裁判官も、もっと費用対効果の視点を持つべきではないかという気がしています。

2008/5/6  13:30

投稿者:dankkochiku

米国では刑務所が企業として成り立っているようですが、PFI刑務所の実状はどうですか。

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