2008/5/3  23:16

毒もみ好きな署長さん(宮沢賢治ワールドに見る規制緩和論)  分類なし

GWなので、なるべく「やわらかい肩のこらない話題」ということで、ブログをアップしている。

ISOLOGUEで世界にはまだこんな高利の貸金業が存在する!(←これは、必読です!)を読んだら、俄然、宮沢賢治の「毒もみ好きな署長さん」を、このブログで紹介したくなった。


子ども時代に宮沢賢治は一冊も読まないまま、この年齢になっていた。

無意識のうちに、子供のころの私は、宮沢賢治ワールドがかもし出す「不可解な狂気」のようなものが、子ども心に恐かったのだと思う。
 
母親になって、おませな我が娘から、この春、宮沢賢治の超短編小説「毒もみすきな署長さん」を紹介してもらった。
我が娘の解説によれば、「毒もみ」とは、魚を取る手法であり、他の国では一般に普及している近代的かつ合法な漁法なのだが、物語の中の署長さんが暮らす国では、大変な違法行為であり、毒もみ好きの署長さんは、宮沢賢治作品の中では、先端技術である「毒もみ」を愛したことで、死刑になってしまうという風に読めば、この物語は理解可能なのだそうだ。

「毒もみ好きな署長さん」は、涙を誘う、泣けてくるような、やるせない物語だったのだ。

その一方で「毒もみ好きな署長さん」は、経済学における「規制緩和の是非」に通じる内容をもつ物語であったとも、指摘できる。
物語の中では、「毒もみ」の技術は、火薬(鉄砲)を使って鳥を捕るのと同じくらいの、生産性を上げて人々の暮らしを豊かにする先端技術なのだが、毒もみ好きの署長さんが暮らす国では、違法行為として厳しく取り締まられている技術なのである。

毒もみ好きな署長さんが、死刑になる前に発する次のような言葉が、なんとも泣ける。
「ああ、面白かった。おれはもう、毒もみのことときたら、全く夢中(むちゅう)なんだ。いよいよこんどは、地獄(じごく)で毒もみをやるかな。」


以下、ネット上で、宮沢賢治の「毒もみすきな署長さん」がアップされているのを見つけたので、以下、全文抜粋引用。

(引用始まり)
毒もみのすきな署長さん
宮沢賢治

 四つのつめたい谷川が、カラコン山の氷河から出て、ごうごう白い泡(あわ)をはいて、プハラの国にはいるのでした。四つの川はプハラの町で集って一つの大きなしずかな川になりました。その川はふだんは水もすきとおり、淵(ふち)には雲や樹(き)の影(かげ)もうつるのでしたが、一ぺん洪水(こうずい)になると、幅(はば)十町もある楊(やなぎ)の生えた広い河原(かわら)が、恐(おそ)ろしく咆(ほ)える水で、いっぱいになってしまったのです。けれども水が退(ひ)きますと、もとのきれいな、白い河原があらわれました。その河原のところどころには、蘆(あし)やがまなどの岸に生えた、ほそ長い沼(ぬま)のようなものがありました。

 それは昔(むかし)の川の流れたあとで、洪水のたびにいくらか形も変るのでしたが、すっかり無くなるということもありませんでした。その中には魚がたくさんおりました。殊(こと)にどじょうとなまずがたくさんおりました。けれどもプハラのひとたちは、どじょうやなまずは、みんなばかにして食べませんでしたから、それはいよいよ増えました。
 なまずのつぎに多いのはやっぱり鯉(こい)と鮒(ふな)でした。それから はやもおりました。

ある年などは、そこに恐ろしい大きなちょうざめが、海から遁(に)げて入って来たという、評判などもありました。けれども大人(おとな)や賢(かしこ)い子供らは、みんな本当にしないで、笑っていました。第一それを云(い)いだしたのは、剃刀(かみそり)を二梃(ちょう)しかもっていない、下手(へた)な床屋(とこや)のリチキで、すこしもあてにならないのでした。けれどもあんまり小さい子供らは、毎日ちょうざめを見ようとして、そこへ出かけて行きました。いくらまじめに眺(なが)めていても、そんな巨(おお)きなちょうざめは、泳ぎも浮(うか)びもしませんでしたから、しまいには、リチキは大へん軽べつされました。


 さてこの国の第一条の
「火薬を使って鳥をとってはなりません、
 毒もみをして魚をとってはなりません。」

 というその毒もみというのは、何かと云いますと床屋のリチキはこう云う風に教えます。
 山椒(さんしょう)の皮を春の午(うま)の日の暗夜(やみよ)に剥(む)いて土用を二回かけて乾(かわ)かしうすでよくつく、その目方一貫匁(かんめ)を天気のいい日にもみじの木を焼いてこしらえた木灰七百匁とまぜる、それを袋(ふくろ)に入れて水の中へ手でもみ出すことです。
 そうすると、魚はみんな毒をのんで、口をあぶあぶやりながら、白い腹を上にして浮びあがるのです。そんなふうにして、水の中で死ぬことは、この国の語(ことば)ではエップカップと云いました。これはずいぶんいい語です。

 とにかくこの毒もみをするものを押(おさ)えるということは警察のいちばん大事な仕事でした。

 ある夏、この町の警察へ、新らしい署長さんが来ました。
 この人は、どこか河獺(かわうそ)に似ていました。赤ひげがぴんとはねて、歯はみんな銀の入歯でした。署長さんは立派な金モールのついた、長い赤いマントを着て、毎日ていねいに町をみまわりました。
 驢馬(ろば)が頭を下げてると荷物があんまり重過ぎないかと驢馬追いにたずねましたし家の中で赤(あか)ん坊(ぼう)があんまり泣いていると疱瘡(ほうそう)の呪(まじな)いを早くしないといけないとお母さんに教えました。

 ところがそのころ どうも規則の第一条を用いないものができてきました。あの河原のあちこちの大きな水たまりからいっこう魚が釣(つ)れなくなって時々は死んで腐(くさ)ったものも浮いていました。また春の午の日の夜の間に町の中にたくさんある山椒の木がたびたびつるりと皮を剥かれておりました。けれども署長さんも巡査(じゅんさ)もそんなことがあるかなあというふうでした。

 ところがある朝手習の先生のうちの前の草原で二人の子供がみんなに囲まれて交(かわ)る交(がわ)る話していました。
「署長さんにうんと叱(しか)られたぞ」
「署長さんに叱られたかい。」少し大きなこどもがききました。
「叱られたよ。署長さんの居るのを知らないで石をなげたんだよ。するとあの沼(ぬま)の岸に署長さんが誰(たれ)か三四人とかくれて毒もみをするものを押えようとしていたんだ。」
「なんと云って叱られた。」
「誰だ。石を投げるものは。おれたちは第一条の犯人を押えようと思って一日ここに居るんだぞ。早く黙(だま)って帰れ。って云った。」
「じゃきっと間もなくつかまるねえ。」

 ところがそれから半年ばかりたちますと またこどもらが大さわぎです。
「そいつはもうたしかなんだよ。僕(ぼく)の証拠(しょうこ)というのはね、ゆうべお月さまの出るころ、署長さんが黒い衣だけ着て、頭巾(ずきん)をかぶってね、変な人と話してたんだよ。ね、そら、あの鉄砲(てっぽう)打(う)ちの小さな変な人ね、そしてね、『おい、こんどはも少しよく、粉にして来なくちゃいかんぞ。』なんて云ってるだろう。それから鉄砲打ちが何か云ったら、『なんだ、柏(かしわ)の木の皮もまぜておいた癖(くせ)に、一俵二両(テール)だなんて、あんまり無法なことを云うな。』なんて云ってるだろう。きっと山椒の皮の粉のことだよ。」
 するとも一人が叫(さけ)びました。
「あっ、そうだ。あのね、署長さんがね、僕のうちから、灰を二俵買ったよ。僕、持って行ったんだ。ね、そら、山椒の粉へまぜるのだろう。」
「そうだ。そうだ。きっとそうだ。」みんなは手を叩(たた)いたり、こぶしを握(にぎ)ったりしました。

 床屋(とこや)のリチキは、商売がはやらないで、ひまなもんですから、あとでこの話をきいて、すぐ勘定(かんじょう)しました。
     毒もみ収支計算
 費用の部
   一、金 二両 山椒皮 一俵
   一、金 三十銭(メース) 灰 一俵
      計  二両三十銭也(なり)
 収入の部
   一、金 十三両 鰻(うなぎ) 十三斤(きん)
   一、金 十両  その他見積り
      計  二十三両也
 差引勘定
    二十両七十銭 署長利益

 あんまりこんな話がさかんになって、とうとう小さな子供らまでが、巡査を見ると、わざと遠くへ遁(に)げて行って、
「毒もみ巡査、
 なまずはよこせ。」
 なんて、力いっぱいからだまで曲げて叫んだりするもんですから、これではとてもいかんというので、プハラの町長さんも仕方なく、家来(けらい)を六人連れて警察に行って、署長さんに会いました。

 二人が一緒(いっしょ)に応接室の椅子(いす)にこしかけたとき、署長さんの黄金(きん)いろの眼(め)は、どこかずうっと遠くの方を見ていました。
「署長さん、ご存じでしょうか、近頃(ちかごろ)、林野(りんや)取締法(とりしまりほう)の第一条をやぶるものが大変あるそうですが、どうしたのでしょう。」
「はあ、そんなことがありますかな。」
「どうもあるそうですよ。わたしの家の山椒の皮もはがれましたし、それに魚が、たびたび死んでうかびあがるというではありませんか。」
 すると署長さんがなんだか変にわらいました。けれどもそれも気のせいかしらと、町長さんは思いました。
「はあ、そんな評判がありますかな。」
「ありますとも。どうもそしてその、子供らが、あなたのしわざだと云いますが、困ったもんですな。」
 署長さんは椅子から飛びあがりました。
「そいつは大へんだ。僕の名誉(めいよ)にも関係します。早速(さっそく)犯人をつかまえます。」
「何かおてがかりがありますか。」
「さあ、そうそう、ありますとも。ちゃんと証拠(しょうこ)があがっています。」
「もうおわかりですか。」
「よくわかってます。実は毒もみは私ですがね。」
 署長さんは町長さんの前へ顔をつき出してこの顔を見ろというようにしました。
 町長さんも愕(おどろ)きました。
「あなた? やっぱりそうでしたか。」
「そうです。」
「そんならもうたしかですね。」
「たしかですとも。」
 署長さんは落ち着いて、卓子(テーブル)の上の鐘(かね)を一つカーンと叩(たた)いて、赤ひげのもじゃもじゃ生えた、第一等の探偵(たんてい)を呼びました。

 さて署長さんは縛(しば)られて、裁判にかかり死刑(しけい)ということにきまりました。
 いよいよ巨(おお)きな曲った刀で、首を落されるとき、署長さんは笑って云いました。
「ああ、面白かった。おれはもう、毒もみのことときたら、全く夢中(むちゅう)なんだ。いよいよこんどは、地獄(じごく)で毒もみをやるかな。」
 みんなはすっかり感服しました。

(以上、全文抜粋引用 終わり)

良い連休を♪

【追記】一夜明けて、一部読みやすいように、表題と文章を手直ししました。





コメントを書く


名前
メールアドレス
URL
コメント本文(1000文字まで)


RSS1.0