2008/7/2  23:15

小説「NAOTO」−14ー  小説「NAOTO」−14−

ある日、VIP棟に急患があった。
英語を話す外国人の有名人らしい。 
英語なので、ボクとヒロが呼び出されて、
処置室へ向かった。 
ノゾミもついてきた。

運び込まれた患者の顔を見て、驚いた。
アルだった。

「アル!!」
「ナオの親友のロサンゼルスにいた、あの、アル?」
「うん」
「どうして日本に・・・・」

診察を終えて、付き添ってきたマネージャーと
話をしてきたヒロは、
「働きすぎ。 過労だ。当分は入院。」と、言い放った。

アルは、今や世界的に売れっ子のスーパーモデルだった。
ファッション雑誌でアルが掲載されていないものはないくらいだ。
最近では、映画出演だとか、CMなど
他の仕事依頼も殺到していたらしい。
スケジュールも分刻みで、
今回の来日も、ほとんど睡眠時間無しで
飛び回っていたらしい。

働きすぎは、昔からだ。 ボクと一緒だね。 
疲れに気づかないなんて。
とにかく、マスコミ対策が必要だった。 
彼は今や超売れっ子モデルだから。
パパラッチが嗅ぎ付けて、
もう病院まで追いかけてきているかもしれない。
ボクは、早速スタッフに指示をだした。
病棟内にも守秘を徹底させた。 
選任のナースとスタッフを限定し、
職員同士の些細な会話からの情報漏れなどにも注意を払った。

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アルは、暫くして意識をもどした。
「ここは?」力なくそうたずねて、あたりを見渡し、
ボクを見つけると血圧が急に上がるほど驚いた。

「ナオ!どうしてオマエが?」
「久しぶり。 こんな形で再会するなんてね。」
ボクは、今までのいきさつを簡単に説明した。

この前、ヒロがボクにしてくれたように、
ボクはラップトップコンピュータを
アルの病室に持ち込んで、
できる限りそこで仕事をするようにした。

なんといっても、アルには通訳が必要だったから。
アルは、少しずつ元気を取り戻してきた。 
ボクの看病のおかげさ。

「オマエが、病院経営なんてなあ。 たいしたもんだ。 
しかも優秀らしいな。」
「アルだって、すごいよ。 もはや、世界的な有名人だもんね。」
「でも、ナオのように生きがいは感じていないよ。 
惰性でやっているだけ。本当は、IT関連の仕事がしたいのさ。 
俺はPCいじっているのが趣味だから。」

「ふうん。見かけによらないな。 
アルはモデルが天職だと思っていたよ。」
「もう、辞めたい。 チャンスをさがしている。 
けど、なかなか。 ここまで有名になっちゃうと、
周囲の思惑とかもあるからね。
でも、もう、踏み切らないといけないな。」

そのとき、ボクの携帯がメロディーを鳴らした。 
この音は中瀬だ。

「はい。 何? えっ? コンピュータが? 
わかった。 すぐ行く。」
「なぁ、今コンピュータって言った? どうかしたのか?」
「あ、いや、たいしたことない。 
ちょっとウイルスに感染していたらしい。」
「おいっ!メインコンピュータじゃないだろうな?
被害がすぐに広がるぞ。」
「ああ、今からシスアドたちと様子を見てくるよ。」
「俺も連れて行け。」
「何言っているんだよ? 君は入院中の患者だよ。 
そこで寝ていろ。」
「もう、大丈夫だ。 歩ける。 
さあ、行くぞ。 急がないと。」

アルは、さっさとベッドから抜け出して、ガウンを羽織った。
ボクは、止めたけれど、アルは言うことを聞かず、
とうとうボクについてきた。

オフィスでは、中瀬がうろたえていた。
「見せてみろ。」アルは、モニターの前に陣取って、
手馴れた操作でコンピュータをチェックし始めた。

「ナオさん、この人、ひょっとして、
この前のトップシークレット扱いの?」
「事情は後。 今は問題解決を優先させよう。 
あぁ、他のスタッフには言うなよ。」
「はい。 わかっています。」
中瀬は、気を遣ってパーテンションで部屋を仕切った。

アルの目つきが違う。 
水を得た魚のようだ。 生き生きとしている。
本当にこっちの仕事の方が好きらしい。 
いい時に、ここに居合わせてくれた。

「おい、なんだよ、このシステムは。 
めちゃくちゃだな。 これじゃあ、だめだ。」
アルの批評は、容赦ない。

それから、どんどん作業を続けていった。 
いつの間にかずいぶん時間がたっていたらしい。 
誰かが仕切りの間から顔を出して、
「ナオさん、ヒロ先生がさがしていましたよ。 
こちらにいらっしゃるそうです」

「まずいっ。 アルを無断で連れ出していたんだ。」
そういえば、マナーモードにしていた僕の携帯が
さっきから何回も振動していたっけ。
 
あれは、仕事の連絡じゃなくて、ヒロからだったんだ。 
「アル、部屋に戻ろう」
「もう少しだから、今やめたら、また被害がでるぞ。 
大丈夫、俺がなおしてやる。」
「まずいなあ。 ヒロにしかられちゃうよ。」

「そうだよ。 まずいよ。」
背後から、ヒロが少し怒ったトーンで言った。 
うわっ!!見つかっちゃった。
「ヒロ、ごめんなさい。 無断で。」
アルのおでこに手をあてたヒロは、
「もう、熱が出てきている。 早く戻らないと。」
病院内用の携帯電話で車椅子を手配した。

ヒロの再三の制止勧告も無視して、
アルは修復作業に没頭した。
もう雰囲気がぜんぜん違う。 
彼の周りは近寄りがたい空気が漂っていた。

すごい集中力だ。 コンピュータ素人のボクらは、
もはや太刀打ちできない領域で
彼は、どんどん作業を進めていった。 
プロ並みだ。 いや、もうプロ以上だった。

さすがのヒロも、声かけをあきらめて、
むっとしながらもそばで見守っていた。
今のアルは、いわゆる「近寄りがたい雰囲気」だったのだ。

ここの病院のコンピュータを担当する者たちですら、
アルの処理のやり方には感服して、尊敬のまなざしを向けた。 
それくらいアルは、すばらしかった。
モデルにしておくのは、もったいないくらいだ。 
本人の言うとおりだ。

しばらくして、アルの様子が急変してきた。 
熱が上がっているようだ。
アルは、ふうっと、小さく安堵して
「応急措置はできた。 これで大丈夫だろう。 
あとは、システムの見直しを。」
と、つぶやきながら、その場で意識を失ってしまった。

ボクは、ヒロに散々叱られた。
一方、アルの方は、とても満足気に眠っていた。 
熱が高いというのに、妙に気持ちよさそうだった。
 
それ、わかるよ、ボクにも。 
りがいのある仕事をやり遂げた時の達成感みたいなもの、
ボクもよく経験するけれど、快感だ。

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しかし、その後、またトラブルが発生した。

コンピュータがまたダウンしたのだ。 
早く修復しないと、病院経営にも影響してしまう。 
ボクは、その連絡を聞いて、あせった。

今度も、そのやり取りを聞いていたアルが、
誰のいうことも聞かずに
コンピュータルームヘ直行し、担当者たちを手伝った。

というか、担当者たちを手伝わせた。 
ボクは、ひたすら通訳をした。
今度は、許可はもらえなかったけれど、
ちゃんとヒロにも連絡しておいた。
ヒロは、
「水谷先生が、言うことをきかずに仕事をしてしまうボクたちに
いつも、呆れている気持ちがわかるなぁ。」と、
ため息をついて、アルのそばで待機した。

そう、アルは、自分の体のことなど全く気にしないで、
ひたすらPC相手に戦っていたのだ。 
もう、誰にも止められやしない。
何かがアルに乗り移っているかのようだ。

アルの献身的な努力のおかげで、
この病院内の問題は全て解決した。
コンピュータ担当者たちは、口々にアルを絶賛し、
ここで働いて欲しいと懇願した。 アルも乗り気だ。

アルは、今契約中の仕事を終えたら、
暫くここで働きたいと申し出た。
ボクは、臨時非常勤職員として、
アルを期間限定で採用することにした。

アルがいてくれると、すごく助かるけれど、
ここに束縛することはできない。
アイツは、こんな所で一生を終えるタイプではない。 
親友のボクには分かる。
もっと広い世界に飛び出して活躍するヤツだ。 
ボクはそう思っていた。
だから、臨時扱いとした。 
も、アルが好きなだけここで働いてくれと、
口頭では、説明した。

アルは、とびっきり明るいヤツだし、
ボクと同じで人懐こいから、みんなに好かれた。
 
あの有名人が、こんな所で地味に働いているとは、
誰も想像できない。
アルは、ほんの少しだけど、日本語も話せるようになった。 
器用なやつなのだ。

英文のネイティブチェックを全てアルに任せられるから、 
ボクは、とても仕事がラクになった。 
それでも、やはり時々、やりすぎてしまうから、 
具合を悪くして
ノゾミにつかまって、 
病室に閉じ込められて、
というパターンを繰り返していた。

ヒロの方は、定期健診の時期を迎えて、 
1・2日ドック入りしていた。

ちょうど喘息シーズンに入っていたので、
最近、軽〜中程度の発作が多くて、
ちょっと調子が悪い状態で、 
あまり元気が無かった。 
ご機嫌ななめだった。

−15−へづつく。



2008/8/27  16:47

投稿者:teruchinn

I love Naoto's story. Tks.

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