2008/8/29 23:00
トマトのしるし!! 新鮮で気弱な言葉達
「ヘンデルの心」
詩 伊東光介
拝啓
お元気ですか?
私は今、静岡に向かっています。
熱海を過ぎた時、今日の天気の良さに驚きました。ここ最近、雨がしょっちゅう顔をのぞかせていたからです。
窓を眺めながらお茶を飲んでいますと、季節の匂いを感じることが出来るような気分になります。
しかしながら、車内販売の人が通り過ぎるたびに、私の心はもどかしくなるばかりです。チョコレートが買いたいのに声をかけられないからです。そもそもあの人がチョコレートを持ち合わせているかどうかすら、私にはわかりかねます。ただわかっているのは、僕が聞きたいのに聞けないということを、あの人は知っているということです。なぜなら、左手でしきりに指差している仕草をするからです。僕が思うに、それはチョコレートがここにありますという合図ではなかろうかと思います。そしてさらに推測すると、それはロッテのトッポというチョコレートお菓子だと思うのです。指の下に、箱型と思われるものがありそうに思えたからであります。とにもかくにも、なぜか今日に限って私は、チョコレートを持ち合わせていないのです。チュッパチャプスと数種類のあめ玉は持ち合わせているのですが、チョコレートはいくら探しても見当たらないのです。そして今日に限って無性に私はチョコレートが食べたくて仕方ないのです。
その時です、私の目にチョコレートが飛び込んで来ましたのは。なんと不覚にもそれはこんなに近くにあったのです。私は自分の視野の広さに感動する前に、189℃横の隣の乗客のチョコレートを目でとらえたのであります。ともすると、この方は先ほどの販売員の方と仲間ではないかと思いました。二人の指差す手の形が、サイとキリンのように酷似していたからです。ということは、この方も私がチョコレートを欲していること、それでいながら聞きたくても聞けないこと、それらを知っているということになります。きっと耳にしているイヤホンで、連絡を取り合っているに違いありません。それに気付いた時、隣の乗客は私の全てを知っているのではないかと思い、私の心は動揺を隠せません。もうチョコレートのことを考える余裕など消えてしまい、そう、まるでチョコレートが暑さに溶けるように、私の熱くなった心で、溶けてなくなってしまったのです。こうなったら無言のせめぎ合いです。私はひたすら冷静沈着を装いました。無心になるように、私はチュッパチャプスをなめ
ました。しかしそんな私の心をあざ笑うかのように、隣の乗客はチョコレートを食べ始めたのです。皮肉にもそのチョコレートは、僕の大好きなブルボンのアルフォートだったのです。僕は思いました。僕の手元になくて、何がアルフォートだろうと。この気持ちはナイフォートなのです。そして僕はその乗客に打ちのめされました。仲間の販売員が横を通り過ぎようとした時、彼は言い放ったのです。
「すみません、トッポください。」
僕がどうしても手に入れることの出来なかったトッポを、いとも簡単に手に入れたのです。隣の乗客は満面の笑みで僕を見ました。僕はソッポを向くことしか出来ませんでした。
私は今、静岡から東京に帰っています。景色を見ながらお茶を飲んでいますと、何だか懐かしい気持ちになります。僕は少しばかり大人になったのです。行きと帰りの新幹線で手紙をしたためました。あなたからもらった手紙が嬉しかったからです。私はあなたにとても会いたいのです。
敬具
詩 伊東光介
拝啓
お元気ですか?
私は今、静岡に向かっています。
熱海を過ぎた時、今日の天気の良さに驚きました。ここ最近、雨がしょっちゅう顔をのぞかせていたからです。
窓を眺めながらお茶を飲んでいますと、季節の匂いを感じることが出来るような気分になります。
しかしながら、車内販売の人が通り過ぎるたびに、私の心はもどかしくなるばかりです。チョコレートが買いたいのに声をかけられないからです。そもそもあの人がチョコレートを持ち合わせているかどうかすら、私にはわかりかねます。ただわかっているのは、僕が聞きたいのに聞けないということを、あの人は知っているということです。なぜなら、左手でしきりに指差している仕草をするからです。僕が思うに、それはチョコレートがここにありますという合図ではなかろうかと思います。そしてさらに推測すると、それはロッテのトッポというチョコレートお菓子だと思うのです。指の下に、箱型と思われるものがありそうに思えたからであります。とにもかくにも、なぜか今日に限って私は、チョコレートを持ち合わせていないのです。チュッパチャプスと数種類のあめ玉は持ち合わせているのですが、チョコレートはいくら探しても見当たらないのです。そして今日に限って無性に私はチョコレートが食べたくて仕方ないのです。
その時です、私の目にチョコレートが飛び込んで来ましたのは。なんと不覚にもそれはこんなに近くにあったのです。私は自分の視野の広さに感動する前に、189℃横の隣の乗客のチョコレートを目でとらえたのであります。ともすると、この方は先ほどの販売員の方と仲間ではないかと思いました。二人の指差す手の形が、サイとキリンのように酷似していたからです。ということは、この方も私がチョコレートを欲していること、それでいながら聞きたくても聞けないこと、それらを知っているということになります。きっと耳にしているイヤホンで、連絡を取り合っているに違いありません。それに気付いた時、隣の乗客は私の全てを知っているのではないかと思い、私の心は動揺を隠せません。もうチョコレートのことを考える余裕など消えてしまい、そう、まるでチョコレートが暑さに溶けるように、私の熱くなった心で、溶けてなくなってしまったのです。こうなったら無言のせめぎ合いです。私はひたすら冷静沈着を装いました。無心になるように、私はチュッパチャプスをなめ
ました。しかしそんな私の心をあざ笑うかのように、隣の乗客はチョコレートを食べ始めたのです。皮肉にもそのチョコレートは、僕の大好きなブルボンのアルフォートだったのです。僕は思いました。僕の手元になくて、何がアルフォートだろうと。この気持ちはナイフォートなのです。そして僕はその乗客に打ちのめされました。仲間の販売員が横を通り過ぎようとした時、彼は言い放ったのです。
「すみません、トッポください。」
僕がどうしても手に入れることの出来なかったトッポを、いとも簡単に手に入れたのです。隣の乗客は満面の笑みで僕を見ました。僕はソッポを向くことしか出来ませんでした。
私は今、静岡から東京に帰っています。景色を見ながらお茶を飲んでいますと、何だか懐かしい気持ちになります。僕は少しばかり大人になったのです。行きと帰りの新幹線で手紙をしたためました。あなたからもらった手紙が嬉しかったからです。私はあなたにとても会いたいのです。
敬具
