2008/5/13  16:16

ある中国人の思い出  弁護士・法律

 刑務所にまつわるコメントがたくさん寄せられたので、ここでこんなお話を紹介したい。
 もう10年近く前になる。ある中国人の強盗事件の弁護をした。拘置所に面会に行くと、彼にはわるいが見るからに獰猛そうな男で、図体もすごく大きい。しかし、事件のことは否認していた(人を外見で判断してはもちろんいけません。)。名をOという。
 当時は起訴状もB4の縦書きだったが、その用紙だけで5ページにわたるという複雑な事件でもあり、共犯者も多数いた。
 しかし、Oは、非常に流暢な日本語をあやつるのであった。したがって、面会にはほとんど通訳の必要がないほどだった。
 私は、彼の弁解を信頼し、無罪の論陣を張ったが、結果的に有罪。控訴したが原判決は維持された。
 私は、Oと最後の面会に行き、上告をしても時間が無駄なだけである、とアドバイスした。大男はさすがにしょげていたが、別れ際に「先生のことは一生忘れません。」と私に言った。私もなんとなくジーンとなったのを覚えている。
 それから7,8年が過ぎた。
 「先生、ヘンな人から電話ですけど…。」と事務員。
 当時、沖縄県宮古島で弁護士をしていた私の事務所を探し当て、電話をしてきたのは、まさにこの中国人Oだった。
 「先生。いま、出てきたところヨ。まっさきに先生に伝えたかったよ。」
 入管からの電話のようだった。
 正直に言えば、私は、金の無心でもされるのではないかと、一瞬彼を疑ったのであった。しかし、彼は「先生。今度、ぜひ、中国に来てください! 帰っても息子は覚えてるかなぁ!」などと実に屈託なく電話口で語るのであった。
 私は、「そうか、そうか。よかったな。それにしても、よく覚えててくれたなぁ。」などと返すのが精一杯だった。
 (日本で刑事弁護をしていても、前科のある被告人の場合など、「前の事件を弁護した弁護士は誰だったか。」などと聞いて正確に答えられる人は意外に少ないものだ。)
 …昨日、中国の四川省で大地震があった。学校が倒壊するなど大変な死傷者が出た模様だ。ところが、こういうときでさえ、中国ではいかに学校建築などに手を抜いているかだ…みたいな言い方を平然(それもマス・メディアで)する人もいる。中国という国になにか生理的な嫌悪感を持っている人が少なくないようだ。
 そういったことの是非をここで論じる気持ちも資格もいまの私にはない。
 しかし、中国人にもあのOのようなヤツがいるんです。…と言いながら、そういえばOは強盗犯だったな…などと、肝心なことを忘れてる自分の馬鹿馬鹿しさに気付く市川弁護士なのだった。
 Oよ、その後元気かい。

 
  



2008/5/16  23:30

投稿者:開設者

アバニコさん
ありがとうございます。コメント欄までしっかりご覧いただいている方も多く、感激しています。
私の書いた記事などより、よほど示唆にとんだお話がコメント欄には多いです。

2008/5/16  12:50

投稿者:アバニコ


先生、オカマ子さん、素敵です。
私の心にも残る、お話です。

2008/5/15  23:36

投稿者:開設者

オカマ子さん
またしても、記憶に残るお話をありがとうございました。
ところで、裁判員のことですが、私は、オカマ子さんのように「裁判員なんて怖くてできない」という、ある種の謙虚さというか、謙譲の気持ちをもった人にこそ、裁判員になってほしいと思いますね。

2008/5/15  22:49

投稿者:オカマ子

 先生、Oさんの時も大変だったんですね。私は裁判所のシステム等はよくわかりませんが、裁判長の意向にもよるのですね。Oさんは、先生が自分の弁解を信じ、ここまで熱心に係ってくれた事が何よりの救いで痛く心に浸みたんでしょうね。窮地の時だから特に。Oさんはある意味、先生と出会えてラッキーだったと思いました。
 私事で恐縮ですが、私の伯父も28年前に50歳で死にましたが十数回刑務所にいっておりました。瀬戸内の貧しい島に生まれ、小学校もろくに行けず…。何を間違ったかやくざに憧れ、全身刺青、小指も無かった。でも結局やくざにもなれずアル中になり暴行や無銭飲食で迷惑のかけっ放しだったようです。子供だった私は、真夏でも長袖、長ズボン、靴下で刺青を隠す伯父がかわいそうで、おふろで擦って消えないものかと悩んだり、指を切った時どのくらい痛かったのか、切った小指は何処にあるのか、等しつこく聞いていました。当然世間は白い目でみます。オカマ子ちゃんの縁談にも差し支えるから今のうちに死ねばいい、との声もきこえる。(そのせいでいまだに独身ではないが)子供心に、そう思われる事も受容しつつ、でも私はそう思わない。心は弱いけど優しく思いやりがあり、かわいい一面もあったのです。だから、人がジロジロ見ようとも、訪ねて来れば一緒にいました。
 今から10年前、伯父が住んでいた島の体育館で私のショーをしました。その時、「天国なのか地獄なのかにいる伯父に代わり、殴られた方、歯を折られた方、自転車を盗まれた方に謝ります。御免なさい。」というと笑いがおき、後で私の所に数人来て「わしもやられたんよ」という。そして、口々に「たーちゃん(伯父)は人が良かった」と。あれっ!島一番の悪人じゃなかったの?って吹き出してしまったことがありました。
 伯父は、相当検事さんや弁護士さんのお世話になってた筈です。ちゃんとお礼を言えてたのかなあ、悪い事をしたのは違いない自分を弁護してくれる有難さを分かっていたのかなあ、と思うと同時に、身内的には市川先生のような弁護士さんと出会ってくれてたらいいのになあ、と思ってしまうのです。
 ところで、私もかなりの偏りがあるし、人は無意識に先入観や決めつけもはたらき、演出にも左右されやすい一面があるかも…。訓練をあまり受けず、裁判員なんて私だったら怖くてできないような気がします。 

2008/5/15  3:12

投稿者:開設者

ジャワジャワ原人さん
私は、少なくともOさんは生き延びていると思っています。それにしても日本もいつこういった大地震に見舞われるかわかりません。

銀座の床屋さん
いずれにせよ、中国にはものすごいパワーがありますね。人が多いということはそれだけで確実なパワーです。

オカマ子さん
Oさんの弁護は国選弁護でした。
ついでにいえば、控訴審でも弁護を引き受けましたが、そのときの裁判長の方針で、一審で弁護をした弁護人は、控訴審では、たとえ被告人が希望し、弁護士も引き受けると言っていても、国選弁護人には指名しない、やりたければ私選でやってくれ・・・と言明されました。
なにか挑発されているような気持ちになった私は「それじゃぁおります」などと言う気になれず、けっきょく私選弁護人として彼の弁護をしました。だからあたりまえですが、控訴審では国選報酬をもらえませんでした。
オカマ子さん。裁判所は魂の透明度を発見するところではありませんし、裁判官はうそ発見器ではありません。しかし、裁判員には、そういう素朴な観察眼が求められていると、僕は思いますよ。

2008/5/15  2:47

投稿者:オカマ子

 先生、コメント恐縮です。ありがとうございます。
 どうも私、カナ釘流ぬれせんべい氏や、いつかの裁判官に正直に食って掛かった要領の悪い「いい子ちゃん」氏に心惹かれてしまいます。裁判所は、魂の透明度を判定する所ではないのでしょうが、システムや要領を熟知し、後付理屈やうそつき演技が上手な人が有利になるような事がないよう、素人としても希望したいです。
 Oさん、律儀な方ですね。先生を探すのに苦労されたんでしょうね。読んでて勝手に映像を浮かべてしまいました。いいお父さんで元気でいるといいですね。怖そうだけど好きやわ〜。
 人間皆、生きているといろんな事があって、自分の煩悩や、愚かさと実は戦いながら生きているような気がします。誰にも良い心と悪い心があるから。
 Oさんもがんばれ〜!

2008/5/14  14:32

投稿者:銀座の床屋さん

そうですか?中国人にも、いい人いるんですね?あっ、私の親戚にも、中国から、帰化した人いました。音楽家で、時間を待ち合わせれば、平気で、1時間半は、遅れる、私の店にくれば、自分が、使った口紅を平気で、女房に「これ、プレゼント」と渡す。また、中国人のスタッフを当店、床屋で、雇用すると、仕事が、できないのに、給料は、安い、遅刻、無断欠勤はする、日本の技術批判は、するターイヘンでしたけど、今は、そのスタッフとマブ達になりましたー!ところで、今、中国人は、日本に大勢、仕事や旅行で、来てますよね?世界の市場は、日本ではなく、中国になってしまいましたから、私も仲良くしたいですぅ。

2008/5/14  8:53

投稿者:ジャワジャワ原人

 事件の関係者が、その後、連絡をしてくると大変うれしいものです(疲れが吹き飛びます。)。また、そういう人については不思議と再犯がないような気がします。
 地震の被災地は大変なようですが、Oさんも元気でいるといいですね。

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