2008/7/14  13:02

「犬たちの隠された生活」 エリザベス・M・トーマス  

先だって秋葉原で起きた大量殺傷事件。犯人の青年は、派遣労働者として満たされぬ気持ちを解雇の噂でかき乱され、自暴自棄になって見知らぬ他人を殺めたという。

甘ったれた野郎だと唾棄したくなる一方で、冷静に考えると孤独な青年だったのだろうと思う。

人間は万物の霊長などと言ったって、所詮は二足歩行哺乳類の一種に過ぎない。それも社会性の極めて強い動物だ。その社会のなかで安定した地位を持っていたならば、このような狂気に身を染めることはなかっただろうと思う。

犬もまた、きわめて社会性の強い動物だ。犬が群れを作った場合、出産が許されるのは一位のメスだけだそうだ。下位のメスが子を産んだ場合、その子供は上位のメスに殺されることがあるらしい。

表題の本の著者の家庭では、実際にその子殺しが行われた。不思議なことに、父親とみられるオス犬も、兄妹の犬も遠くから傍観するばかり、目の前で産んで間もない子犬を殺されるメス犬は、ただ怯えるばかり。冷静に殺戮は行われる。

その後は何事もなかったかのように平静を取り戻す。犬の社会における階級は、かくも重たい。子を殺されても、その下位のメス犬は、群れの階級を乱すことなく、自らもその位置に安住することを望んだ。社会性の強い動物にとって、社会における自分の位置が確保されることは、極めて重要な問題なのだ。

人間もまた同じなのだろう。少子高齢化社会を迎え、グローバリズムに振り回され、その変化に対応できずに、ゆるやかに下降線を辿る日本は、従来の常識が信じられない時代を迎えている。

世界の国々のなかでも、犯罪率は低く、失業率もそれほど高くはない。不況といいつつも、アジア、アフリカの不況よりははるかに恵まれた国であるのも事実。それでも、人々は不安を隠しきれない。

現状に満足できず、将来に希望を持てない人は、自暴自棄になり犯罪に走る。人間は社会性の強い動物だ。その社会のなかで安定した位置を保持しているのなら、貧しくとも過酷でも耐えられる。

社会のなかで安定した位置を持たない人は、当然に社会を逆恨みして、その破綻を望みさえする。秋葉原の殺傷事件は、ある意味起こるべくして起こった事件なのだろう。

犬に失礼な言い様だが、あの犯人は犬にも劣る畜生だな。



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